非財務情報を監査法人はどうチェックする?

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2018年05月10日

  • 吉井 一洋

4月24日の企業会計審議会監査部会で、監査基準改訂の公開草案公表に向けた審議が行われた。監査部会のメインのトピックは、企業の財務諸表に関する会計監査人(公認会計士・監査法人)の監査報告書へのKAM(監査上の主要な事項(※1))の導入である。これは、監査報告書に、財務諸表が適正か否かの意見を述べるだけでなく、会計監査人が監査を行う上で特に注意を払った事項について記載を求めるというものであり、国際監査基準(ISA)などでは既に導入済みである。同日の監査部会では、同様の記載をわが国の監査報告書でも求める改訂監査基準の公開草案を公表することを決定した。新制度は2021年3月期決算の財務諸表監査から導入(早期適用可能)を予定している。同制度の導入は、財務諸表の利用者(株主・投資家・アナリスト)のみならず、財務諸表作成企業、監査法人等にとっても有益であると期待される。

その一方で、非財務情報のチェックという観点で重要な制度改訂が見送られた。有価証券報告書の記載事項の中で、(連結)財務諸表やその注記は、会計監査人の監査対象となっているが、非財務情報は、監査対象外である。ただ、会計監査人が全くチェックをしていないかというとそういうわけではない。現行制度でも、日本公認会計士協会の監査基準委員会報告書720号では、会計監査人に、有価証券報告書など監査済みの(連結)財務諸表及び監査報告書が含まれる開示書類の「その他の記載内容」(非財務情報など(※2))についても、通読して、監査した財務諸表と重要な相違があるかどうかを確認するよう求めている。もし重要な相違があり「その他の記載内容」に修正が必要な場合、会計監査人はその会社に修正を求め、会社が修正に応じなければ、①監査役等に報告するとともに、監査報告書にその事項区分を設けて重要な相違について記載する、②監査報告書を発行しない、③可能な場合、監査契約を解除する、のいずれかの対応が求められる。

国際監査基準(改訂ISA720号)では、(年次報告書について)この取扱いを強化し、単なる通読ではなく、会計監査人が監査を通じて得た知識と重要な相違があるかを考慮する、監査報告書に「その他の記載内容」の区分を常に設け、監査・保証の対象でない旨などを記載した上で、未修正の「重要な虚偽記載」がある場合はその旨(ない場合は、報告事項がない旨)を記載するよう求めている。冒頭で述べた監査部会では、改訂後のISA720号をわが国に導入するかもテーマとして挙げていたが、十分な検討時間がなかったとして、結論を先送りした。

非財務情報の重要性を指摘する意見が高まる中で、ISAを定めるIAASB(国際監査・保証基準審議会)がIIRC(国際統合報告委員会)などの協力を得て、統合報告書の記載内容の保証業務について検討をしている。統合報告書の記載内容が実務で固まらない状況で、特定の項目の基準を開発するのは時期尚早との指摘もあり、IAASBは、現時点では、既存の保証基準のガイダンスの整備に焦点を絞り、2020年に整備を完成させる予定である。そのような中で、監査・保証まではいかなくても、会計監査人のチェックを求める監査基準委員会報告書720号や改訂ISA720号の重要性も高まっていると思われる。金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループでの非財務情報拡充の議論などに遅れぬよう、わが国でも早期の検討再開が望まれる。

(※1)同日の審議会資料1「監査基準の改訂について(公開草案)」では、「主要な監査上の検討事項」
(※2)財務諸表やその注記以外の財務情報も含まれる。

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