ミャンマーの今、そしてこれから

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2018年05月01日

  • 佐藤 清一郎

2011年以降、軍事政権の民政移管により、「アジア最後のフロンティア」として大きな注目を浴びたミャンマー。テレビや新聞で、連日のように報道されたこともあり、多くの人が、ビジネスチャンスを求めミャンマーに殺到した。その当時、飛行機の便やホテルの部屋を予約ができずに出張を断念せざるを得ないケースも稀ではなかった。

しかし、現在は、こうしたミャンマー熱は覚めた感は否めない。テレビや新聞でのミャンマー関連の報道頻度は、めっきり減っている。時たま報道されたかと思うと、ロヒンギャの人権問題のニュースばかりで、経済の話は少なくなった。大きな可能性を秘めた国として経済の報道が多かった以前と比較すると、隔世の感を禁じ得ない。

こうした状況になった背景には、ビジネスチャンスがあると思っていたが、エネルギー不足が想定以上に深刻で企業活動がままならないとか、基礎的インフラや法的整備が遅れており本格的な経済成長までには、まだ、時間が必要との判断を下し、一旦、進出を見合わせた企業が多く存在したことで、ミャンマーへの関心が薄れたことがあるだろう。

宴の後とも言えるミャンマーは、今、どうなっているのか。外国からの投資が一段落していること、2016年3月に発足した国民民主連盟による政策運営が適切でないこと等により、経済成長率は2013年の約8.5%をピークに低下してきており、最近では7%程度となっている。一時懸念された貿易赤字拡大やインフレ率上昇は、成長率が低下したこともあり更なる悪化は回避されている。しかし赤字体質及びインフレ体質は、経済の脆弱性に起因する現象であり、構造改革による抜本改革がなければ解決には至らないため、まだ油断はできない。

最近の目立った動きの一つとしては、オフィス、レジデンス、ショッピングセンター、ホテルの建設ラッシュである。2~3年前に計画されたものが次々に具体化してきており、ヤンゴン市内の景観を大きく変えている。特に象徴的な建物は、地元財閥であるシュエタングループが手掛けたジャンクションシティという大型複合施設である。ダウンタウンの市場跡地を利用して建設され、オフィス、ホテル、ショッピングセンター、レジデンスがある。ショッピングセンターは、日本のイオンモールと同程度かそれ以上の規模感で、多くの人が買い物を楽しんでいる。また、ホテルは洗練されたデザインに加え、ミャンマー仏教の総本山であるシュエダゴンパゴダを一番近くで眺められるロケーションにあることで人気がでている。ジャンクションシティは、ヤンゴンを訪問する機会があれば、是非、チェックすべき場所の一つである。変わりゆくミャンマーの一端を感じることができるであろう。

建設ラッシュによる供給量増加で、以前のような需給逼迫感は薄れ、不動産価値は減価してきている。オフィスやレジデンスの賃料はピークアウトし、低下方向へと動きだしている。また、ホテルの宿泊料についても、パンパシフィック、ロッテ等の大型5つ星ホテルが次々と開業、今後も、ケンピンスキー、プルマンが開業を控えているという状況で、低下圧力を受けている。不動産関係者やホテル関係者としては、当初見込みが外れた感があり、悩ましい問題となっている。

新興国のわりには成長率が低い状況や、一時外国からの注目を浴びたことによる家賃高騰等の影響で、ミャンマーの不動産市況は、当面、弱含みが続く可能性が高い。しかし今後、エネルギー不足や基礎的インフラ不足(これが、かなり難題ではあるが)が解決に向かえば、将来的に、耐久消費財ブームなどをきっかけに成長が加速する局面も期待できるであろう。そうした状況になれば、不動産需給は改善し、価格もリーズナブルな方向へと落ち着いていくであろう。筆者としては、一人当たりGDPが2,000ドルを超えてくる2020年代前半あたりから、再度、ミャンマーが注目されてくるのではないかと思っている。あと5年くらいの辛抱だろうか。

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