Give&Take考

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2018年04月17日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 林 正浩

ビジネス世界はGive&Take。そしてマネタイズの鉄則はGive&Takeとその先にある損得勘定としてのWin-Win。そう信じて疑わない読者の皆様は少し立ち止まって自らのビジネススタンスを見つめなおしてはいかがでしょうか。

実はビジネスの現場では純粋なGiveは存在せず、お互いを利用し合う関係、即ち「Take&Taken」である場合が殆どです。互いが互いを値踏みし、会食の席では愛想笑いを浮かべ、相手の利用価値を「時価」で常に推し量りながら関係を深めていく。自分(自社)の利益になるようなアクションや意思決定を常に相手に求め続け、一方で相手に利用されまいと、相手に先んじて狡猾に相手を利用しようとする。そしてその「相手を利用している感」は決して表には出さない…

ビジネスを回していく過程では当たり前なことですが、何となく窮屈ですね。疲弊の一途をたどる。そんな気がします。なかなか減らない仕事上のストレスの遠因はこの「窮屈な」Take&Takenにあるのではとも思えてきます。

Giveだけ、即ち見返りを求めず、与えることばかりが先行する「Giver」を気取ると「仕事はボランティアじゃないんだから…(※1)」と上司にたしなめられる。せっかくお客様のために良いことをしているのに評価されない。これではモチベーションも下がってしまいます。
相手を心から尊重し、相手を知ることに徹し、相手を知ることを楽しみ、そして見返りを求めることなく与え続けることは本当に「やり損」なのでしょうか。

個人的な意見ですが、私はそうは思いません。常に支払った金額以上の価値を相手に返す、あるいはお支払い前に驚くような価値を徹底して与え続ける。そうすると、この過程で相手には「健全な負債感」が生まれます。常に「Give」が「Take」を上回る不等価交換の状態を意識的に保っておけば、このオープンネットワークの時代、個人や企業の良い評判は短期間で流通します。昔は悪い評判だけが千里を走り、良い評判はなかなか広がりませんでした。しかし今は「神対応」「いいね!」として瞬時に広がります。

ご来店いただいたお客様に試食として供する御菓子をゆっくりお召し上がりいただくためのスペースをわざわざつくり、お茶まで無料でサービスする。こんな土産物屋さんは地域の皆様から支持され、その良い評判は増幅されながらSNSを介して全国に、そして時には海を超えるのです。

貨幣経済以上に評価経済がビジネスの基盤を形成する昨今、「評判資産」が何よりも重要になります。目先の利益よりも「あの人(あの企業)は善意のかたまり」という好ましい評判や評価こそかけがえのない資産なのであり、「Give」の先行が独自のブランドを形成することも珍しくないでしょう。そして何よりお客様からの「ありがとう、そこまでやってくれるとは!」は私たちビジネスパーソンの明日への活力ともなります。「そんな綺麗ごとを…」と斜に構えるのはやめにして、厳しい時代だからこそ健全な建前論を大事にしたいものです。

(参考文献)
「ゆっくりいそげ~カフェからはじめる 人を手段化しない経済」(影山知明著、大和書房、2015年)
「GIVE&TAKE「与える人」こそ成功する時代」(アダムグラント著、楠木健監訳、三笠書房、2014年)

(※1)ボランティア活動はGiveが先行するどころか、Giveだけで見返りを求めない取り組みと考えがちですが、決してそんなことありません。米国ソーシャルプロダクションカンパニーの先駆けであるRock Corpsでは「4時間以上のボランティア活動を行うと人気アーティストの音楽イベントに参加できる」というシンプルな仕組みで2003年以来、14万人以上の方々のボランティア参加を実現しています。無償が常識であるボランティア活動に積極的に見返りを供する。こんな考え方もあるのです

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林 正浩
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マネジメントコンサルティング部

主席コンサルタント 林 正浩