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結局、誰もが自分がかわいい ~貿易戦争の真犯人はユーロ圏?~

2018年04月12日

経済調査部 経済調査部長 児玉 卓

落としどころが見えずにいる米中を軸とした貿易摩擦の背景にユーロ圏あり、などと言えば彼の地の政治指導者たちは顔をしかめるかもしれない。しかし、これは根拠薄弱な難癖などではない。

最近でこそ、ユーロ圏の成長率も米国にさほど遜色のないものとなってきたが、中期的なユーロ圏の成長パフォーマンスの劣位は明らかである。2010年から2017年の年平均成長率は米国の2.1%に対してユーロ圏は1.2%に留まる。更に差が大きいのが内需だ。同じ期間、米国の内需は年平均2.2%増加したが、対するユーロ圏のそれは0.8%に過ぎない。言うまでもなく、ユーロ圏の相対劣位の一因は「ユーロ圏危機」にあるのだが、内需の伸びの著しい格差は、危機の傷を浅くし、それを克服するために、ユーロ圏が一種の近隣窮乏化策に依存した結果であるといえなくもない。

実際、ユーロ圏全体の経常収支GDP比は2010年には▲0.1%とほぼ均衡状態にあったが、2017年には3.5%と大幅な黒字を計上している。2010年と言えばギリシャの粉飾財政発覚直後、ユーロ圏危機深刻化の初期段階に当たる。従って、ユーロ圏全体の経常収支の均衡の裏では、高所得国(コア国)の黒字と低所得国(周縁国)の赤字という二極化が進行していたのである。典型的にはドイツという生産性の高い国とギリシャというそうでない国とが同じ通貨を使う矛盾の表出である。

ギリシャやスペイン、ポルトガルといった周縁国とすれば、ユーロ圏に留まり続ける以上、赤字解消の手段として通貨切り下げは採用不可であり、その代替策として強烈なデフレ政策をとるしかなかった。賃金等の投入コストを切り下げることで、競争力を回復し、経常収支の黒字化を目指すのである。緊縮財政を主たる手段としたデフレ政策がもたらす内需の収縮と相まって、その試みはある程度奏効した。ここまでは良い。ユーロ圏瓦解回避のための、不可避のプロセスだったとみなせよう。問題はこの黒字化の圧力をユーロ圏域内で相殺せず、域外への拡散を放置したことである。図が示すように、周縁国の経常赤字が縮小する中、コア国の黒字は維持、むしろ若干拡大している。それが、ユーロ圏全体での経常収支均衡から大幅黒字への転換の内実である。仮にドイツ等のコア国が、ギリシャ等の緊縮財政を相殺する拡張的な財政政策をとっていれば、後者の赤字削減は前者の黒字縮小と同時進行し、ユーロ圏全体の経常収支均衡は概ね保たれたのではないか。

こうしたプロセスが、何らかの経常収支の赤字拡大圧力を米国に与えた可能性がある。シェール革命という特大級のボーナスを享受しながらも、2010年以降の米国の経常赤字GDP比が2%台半ばから後半で足踏みしていることがそれを示唆しているし、そもそも、ユーロ圏コア国がもう少し柔軟な財政政策を採用していれば、成長率格差に基づく米国の赤字拡大圧力が緩和されたであろう。それは貿易赤字を損失とみなし、黒字国を悪者呼ばわりするトランプ氏の外交戦略の根拠を奪う効果を持ったかもしれない。

摩擦深刻化の懸念が現実の問題となっている現在、陰の犯人探しをしてたところで何もならないのは確かだが、過去の教訓に背を向けるのも非生産的である。米国は昨年末に景気刺激を企図した税制改正を成立させている。景気循環的に相当成熟化している米国にあって、それが成長加速に効力を持つかには疑問が残るが、いずれにせよ、財政赤字の拡大は必至であり、それは経常収支の赤字を増大させることにもなろう。結果として、トランプ氏による際限のないもぐらたたき的な経常黒字国攻撃が続く可能性がある。

こうしたリスクを減じる上で、ユーロ圏には柔軟な財政政策を含む成長促進策の検討を期待したいところである。トランプ氏の不合理な政策の口実を奪うことが、米国に続く経済規模を誇るユーロ圏の役割の一つではあるまいか。欧州は、鉄鋼製品等の輸入制限を検討するなど、米中摩擦の余波を振り払うことに余念がないが、他にもやることはあるはずである。

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