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今暮らしているのは「デフレ脱却」後の世界?

2018年03月20日

金融調査部 主任研究員 長内 智

最近、値上げの動きが徐々に勢いを強めている。これは、2017年6月以降の原油高の影響や、天候不順に伴う生鮮食品の価格高騰に加えて、人件費の上昇を販売価格に転嫁する企業が増えているためだ。さらに、商品の容量や数量を減らし、消費者に気づかれにくい形で実質値上げを行う動きが拡大している点も注目される。足下では、原油や生鮮野菜の価格上昇に一服感が見られるものの、値上げの足音は静まることがなく、着実に大きくなっている。

このように消費者が物価上昇に直面している一方、政府と日本銀行の消費者物価の基調判断は、依然として慎重なままだ。内閣府が公表している「月例経済報告」によって政府の消費者物価の基調判断を確認すると、2016年8月から2018年2月まで19ヵ月連続で「横ばいとなっている」とされ、3月になってようやく「このところ緩やかに上昇している」と上方修正された。日本銀行の1月の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」では、「エネルギー価格上昇の影響を除くと弱めの動きが続いている」との基調判断が示された。

まるで、政府と日本銀行は、値上げの動きが広がっている現実の世界とは別の世界で物価動向を見ているような印象を受ける。しかし、これには単純なからくりが存在する。それは、消費者と政府・日本銀行の物価の「モノサシ」が異なっているというものだ。消費者物価指数(CPI)には複数のコア指標が存在し、消費者の直面する物価については、「持家の帰属家賃を除く総合」、政府や日本銀行の基調判断では、「生鮮食品を除く総合」と「生鮮食品とエネルギーを除く総合」がとりわけ重要な指標となる。

政府と日本銀行のモノサシは、基調的な変化を捉えるために、生鮮食品やエネルギー価格の高騰という振れの大きな品目の価格変化を除いている分、足下で相対的にインフレ率が小さくなりやすい。具体的に直近の数字を比較すると、2018年1月は「持家の帰属家賃を除く総合」が前年比+1.7%、「生鮮食品を除く総合」と「生鮮食品とエネルギーを除く総合」が、それぞれ同+0.9%、同+0.4%と、両者の差がかなり開いていることが分かる。

消費者の直面している物価動向が前年比+1%台後半まで上昇している足下の状況に限れば、現実の世界はすでに「デフレ脱却」を達成し、緩やかなインフレ局面に転じていると評価できる。また、過去を振り返ってみると、「持家の帰属家賃を除く総合」は、2013年12月、2014年3月~5月(4月と5月は総務省による消費税調整後)に同+2%を記録していた。つまり、当時、消費者が実感として考える物価のレベルでは、短期的ながらも日本銀行の2%のインフレ目標が実現した世界に足を踏み入れていたと言えよう。

今後の焦点は、コストプッシュの様相を呈している今回の物価上昇が、実質賃金の低下や節約志向の高まりを通じて、消費の伸び悩みなど実体経済に対してマイナスに作用するどうかである。それを見極めるためのリトマス紙として、春闘におけるベースアップ(ベア)の水準が重要となる。つい先日公表された春闘の第1回回答集計の結果に基づくと、ベアの水準よりも消費者の直面する物価上昇率の方が高く、今後も続く値上げの動きは消費者の財布に響くものとなりそうだ。

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