地方大学の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」における期待

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2018年03月01日

  • 経済調査部 市川 拓也

「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が策定されてから3年が経過した。改めて当時の総合戦略を見ると、大学に関する言及が多く、「大学」で検索をかけると61ページの本文中、約50箇所にも及ぶ。イノベーション創出拠点に研究機関等とともに集積する「大学」、サービス経営人材育成の場としての「大学」、グローバル・リーダー育成や外国人留学生を受け入れる「大学」といった具合である。地方創生において、いかに大学に戦略的な期待がかかっていたかを示すものと言えよう。


同総合戦略については、すでに進捗に対するKPI評価が報告書(※1)にまとめられている。この中には、①自県大学進学者割合全国平均の32.9%から36%への引き上げ、②新規学卒者の道府県内就職割合の71.9%から平均80%への引き上げ、といった大学関連のKPIへの評価も含まれている。当該KPIの評価は達成率の評価ではなく、実績値が当初よりも上昇していれば進捗しているとの評価が得られるが、両者ともむしろ低下しており(①は32.7%(2017年度速報値)、②は66.1%(2015年度))、共に進捗ありの評価を得られていない。


しかし、そもそも地方創生に向けた指標に、自県大学進学者の割合を指標とすることや、新規学卒者の同県内就職割合を指標とすることは妥当なのであろうか。就職との関連で言えば、地元企業が自県大学の卒業生の採用を優先的に望むのか疑問であり、また全国の新規学卒者が各々の自県内で就職することが地域経済を支えるイノベーションにつながるのかも疑問である。効果を全く否定するものではないが、いずれにしてもこれらが地方創生全体の施策として極めて重要とは考えにくい。


「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」で紹介された岡山県津山市の美作大学は、福祉や食などに特化しており、域外の学生からの人気が高い。同大は学生を地域に囲い込むどころか出身県へのUターン就職ができるよう手厚い支援を施しているという。地方創生を地方全体の課題として捉えれば、大学進学希望者や大学卒業生をいかに地域で囲い込むかではではなく、多様な地域で得た知識や人脈をいかに「全体としての地方圏」で活かせるかが重要なのではなかろうか。


(※1)まち・ひと・しごと創生総合戦略の KPI 検証チーム「まち・ひと・しごと創生総合戦略のKPI 検証に関する報告書」(平成29年12月13日)

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