英国とEUの通商交渉の焦点は金融サービスの取り扱い

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2018年01月26日

  • シニアエコノミスト 菅野 沙織

Brexitに伴う英国政府と欧州連合(EU)の間の通商協定を巡る交渉の開始が3月に迫っている。しかし、離脱後のEUとの通商の在り方については、英国政府内ですら完全には意見がまとまっていない。しかも、英国とEUのスタンスの隔たりも交渉の開始前から既に表面化している。とりわけ、金融サービスを巡る対立は深刻であり、交渉が難航する懸念が高まっている。


英国側は、金融サービスを将来の自由貿易協定の対象にすべきだと主張しているのに対し、EU側は、これまでの自由貿易協定には金融サービスを含んだ協定の前例がないと反発し、英国側の要求を受け入れない姿勢を崩していない。


無論、金融サービスは英国の貿易において重要な役割を果たしている。16年には、英国の貿易収支の赤字額が400億ポンドであったのに対し、金融サービス収支が500億ポンドの黒字であったことを考えると、やはり金融サービスは英国にとって極めて重要であるため、通商協定の対象だと主張しても違和感がない。英国の金融機能に障害が生じた場合、欧州はいうまでもなく、北米、アジアの金融市場も負の影響を被る可能性が高い。よって、グローバル金融市場の安定のためにも、金融サービスを巡る英・EU間の対立をできるだけ早期に解消することが望ましく、双方が納得できる解決策を見出すことが重要である。


政治家らが自らの主張を繰り返している間に、英国中銀の関係者はこの問題の解決に向けて「妥協策」を提唱し始めている。その趣旨は、大雑把な「どんぶり勘定」の議論を行う代わりに、金融サービスについては業務別に交渉を進めるというものである。これはつまり、EUの単一市場へのアクセス、とりわけ現在の「金融パスポート」の保有を継続的に必要とする、例えば投資銀行やアセットマネジメント等と、主に国内業務を行うリテールバンキング、生命保険等とを区別し、より実態に沿って通商協定に含めるか否かを話し合うことである。
ただ、金融サービスは英国にとっては極めて重要であるものの、他国との通商関係の観点から見れば、それらの関係の一部にすぎない。そこで、ノー・ディールのリスクを避け、事態の早期収束を図るためにも、メイ政権が早期に交渉の青写真を描くことが重要であることはいうまでもない。賛否両論を巻き起こした年明け早々の内閣改造は、そのための布石であると信じたい。

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