踊り場に、ナイス・オン!
2018年01月25日
筆者は、基本的にゴルフをしない。うまくなれないから、やりたくないというのが正しいかもしれない。とはいえ、ある年齢になると、おじさんを中心にしたゴルフ・コミュニティがあるのも事実だ。ただ、どのような世界でも、符丁がつきものだから、ちょっとかじっただけの門外漢には分かり難いことが多い。スイングの仕方ひとつとっても、先輩たちからの助言は本当にありがたいの一言に尽きる。しかし、不器用なせいか、“肩を回す”をはじめ、上半身はこう、手首はどうで膝はこうするといった様々な表現を自分の体の動きに落とし込めず、さらにぎこちなくなる。分かる人にしか、分からないようなニュアンスがどうしても克服できない。
経済分野も同じかもしれない。分かる人にしか、分からない言葉が多い。例えば、「景気の“踊り場”」という表現がある。よく用いられるが派生した意味だ。一言でいえば、横ばいだが、勢いが弱まっている点は同じでも、通常、上昇局面でしか使わない。原意は、言うまでもなく、階段の途中にある小スペースのことだが、かつての日本建築では階段は急で、ほとんど平らな余裕もなく、西洋建築の導入後、用いられてきた言葉のようだ。しかし、もとは西洋とはいっても英語では、かかる経済状況を “踊り場”とはいわない。大和総研の経済予測でもJapan’s economy is still in a temporary lull.のように小康状態といった言葉で表している。
では、踊り場、dance floor は、どこにあるのかといえば、クラブやディスコ以外、実はゴルフ場にある。ナイス・オン!(これも和製英語だが)という場面で、You're on the dance floor.と言われれば、(ボールが)グリーンに乗ったことを指す。
もちろん、乗っただけで小躍りしてばかりもいられない。スリーパット(パターで3回打つ)にでもなれば、スコアは、どんどん増えていくことになる。
実は、日本でおなじみのロング、ミドル、ショートといったホールの長さを大別した言い方は、英語にはなく、ただ、パー4とか呼ぶだけのようだ。ゴルフでは、各ホールに、あらかじめボールを打ってカップに入れるまで打数の標準(Par)が決められている。○○アンダー、××オーバーとか、その標準に比較して、いかに少ない打数でゲームを終えるか、その合計を競うのだが、そのParという言葉は、株式市場の用語から転用されたものだ。
それ以前は、“ボギー” (Bogey)という言葉が標準を指していたが、あるゴルフ記者が全英オープン優勝スコアを株価と企業価値とが同じことを示すParを引用して開催場所の「プレストウィック・ゴルフ・クラブにおける “標準”」との比較で記事に書いたことに由来しているという。
他にも、お馴染みの英語には、バンカーがある。銀行員(家)ではないのは言わずもがなだが、こちらのbunkerは、くぼ地、へこみを指す。英語での別の説明では、depressionとあるが、どちらにも陥りたくはないと思う。もともとは、人工的なハザード(障害区域)ではなく、スコットランドの海沿いのゴルフ場での野ウサギなどの巣穴や強い雨風で浸食されてできた自然の深いくぼみを指していたものだ。
ちなみに、筆者のような下手なゴルファーのことは、俗に“ハッカー/hacker”と呼ぶらしい。原意の中に、叩き切るという動詞があり、初心者は、やたらと力任せに振るためらしい。ビジネスでもゴルフでもハッカーは、およそ歓迎されない。
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