コーポレートガバナンス・コードの見直しを巡る対話 ~総務部長Bのため息~
2018年01月24日
研究者Aと上場会社総務部長Bの対話
A 今年の株主総会シーズンに向けてコーポレートガバナンス・コード(CGコード)改訂の議論が進んでいる。
B どういうことだ?
A メインは、機関投資家と企業の対話において重点的に議論することが期待される事項についての「ガイダンス」策定だが、それに合わせて、必要なCGコードの見直しも予定されている(※1)。
B ガバナンス対応もようやく一山越したと思ったら、またやらなきゃならないのか。
A CGコード策定当初から、定期的な見直しを行う方針が示されていた。2015年の策定から今年で3年を迎えるのだから、「そろそろ来る」と先読みできるくらいでないと、優秀なビジネスパーソンとは言えないぞ。
B それはそうだが…具体的にどのような改訂が予定されているのだ?
A 具体的な改訂の内容はまだ明らかではない。ただ、機関投資家と企業の対話の内容として期待される5つの事項(※2)がヒントにはなるだろう。
B 5つの事項とは?
A 一点目は、「経営環境の変化に対応した経営判断」だ。
B 随分と抽象的だな。
A 要するに「攻めのガバナンス」は機能しているか、ということだ。
例えば、経営戦略・経営計画等が中長期的な企業価値の向上につながるものとなっているか、経営陣が自社の資本コストを意識した経営を行っているか、経営環境の変化に応じた事業ポートフォリオの組替えなど果断な経営判断が行われているか。
B 資本コストか。あまり考えたことはないな。
A 二点目は、「投資戦略・財務管理」の問題だ。
B これもかなり抽象的だな。
A 念頭にあるのは、中長期的な企業価値向上につながる設備投資、研究開発投資、人材投資などを怠り、ひたすら現金を積み上げていないか、ということだ。
B 耳が痛い話だ。
A 三点目は、「CEOの選解任・取締役会の機能発揮等」だ。
B ようやくガバナンスらしい話題になった。
A そうだな。おそらく一点目も二点目も最終的にはこの三点目に関係するものだろう。
ここでの問題は、一言で言えば、本当に相応しい人物を、CEO、独立社外取締役、監査役として選任しているか、そのプロセスは確立しているか、ということだ。
経営陣の報酬体系が、中長期的な企業価値の向上に向けたインセンティブとして本当に機能しているかもここでのテーマだ。
B 形ばかりの対応ではダメだと言いたいのだな。
A 四点目は「政策保有株式」。
B 政策保有株式?これは今のCGコードにもあるだろう?
A 原則1-4にある。政策保有株式を保有する会社に対して、政策保有に関する方針の開示、取締役会における経済合理性や将来の見通しの検証、それを踏まえた保有のねらい・合理性の説明、議決権行使基準の策定・開示を求めている。
今回、議論となっているのは、これらの開示や検証などが形ばかりの対応になっていないか、ということだ。加えて、政策保有株式を保有している会社だけではなく、「保有させている側」の会社の問題も議論されている。
B それは、つまり…
A 「保有している側」が、折角、売却して政策保有を解消しようとしているのを、「保有させている側」が妨害しているのではないか、ということだ。どうした顔色が悪いぞ。
B 気にせず先を続けてくれ。
A 5点目は、「アセットオーナー」によるスチュワードシップ・コード(SSコード)の受入れが進まないという問題だ。
B SSコードなら投資家の問題だろう?
A ここでのアセットオーナーとは、企業年金を想定している。
企業年金がきちんとスチュワードシップ責任を果たさないとBが将来もらえる年金が減るかもしれないぞ。総務部長の責任は重大だな。
B 脅かさないでくれよ。
いずれにせよ、株主総会シーズンに向けて、議論の動向には注意するとしよう。
(※1)平成29年12月8日閣議決定「新しい経済政策パッケージ」
(※2)平成29年12月21日開催「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第13回)資料4「企業と投資家の間の対話に係る論点」
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金融調査部
主任研究員 横山 淳