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「楽観」の賞味期限

2018年01月11日

経済調査部 経済調査部長 児玉 卓

振り返れば、2017年はおっかなびっくりの年明けだった。トランプ氏は一体何をやらかすのか。ルペン・フランス大統領の誕生で、EUが崩壊したりはしないだろうか・・・・。しかし、蓋を開けてみれば、米墨国境に壁は築かれず、米国が中国懲罰的な税制を採用することもなかったし、貿易黒字国へのナンセンスな糾弾もほどほどで済んだ。フランスではルペン勝利どころか親EU姿勢全開のマクロン政権が誕生し、2016年のBrexit騒ぎ以降垂れ込めていたEU瓦解の恐怖を振り払うに大いに貢献した。そして、経済は総じて好調。米国は完全雇用近傍の中で、金融政策の正常化が粛々と進められ、ユーロ圏では景気拡大に弾みがついた。こうして、2018年は打って変わった楽観論の中で幕を開けたわけだ。


しかし、1年前の悲観論がフェードアウトしたように、現在の楽観論の先にどんでん返しが待っていないとも限らない。というよりも、かつての悲観論は本当に根拠希薄なものにすぎなかったのだろうか。そうではなく、いくつかの幸運がたまたま悲観論を覆い隠しはしたものの、悲観論の背後にある社会的・経済的な不穏な空気が、今も世界の各所に潜み続けているということはないだろうか。


パリ経済大学の世界不平等研究所のデータによれば、米国の所得階層トップ1%の全国民の所得に占める比率は1980年には10.7%であった。それが2014年には20.2%とほぼ倍にまで膨らんでいる。そしてこの間、下位50%の所得比率は19.9%から12.6%に低下した。米国は既に100カ月を超える景気拡大の最中にあるが、過半の米国人は、ここで増大したGDP(=増加した所得)の分け前にあずかっていない可能性が高いということだ。こうした所得分配の不平等化が、米国における現状否定的な世論を醸成し、トランプ勝利の一因をなしたわけだが、そのトランプ政権が成し遂げた初めての顕著な「成果」が、所得分配の不平等を助長する可能性の高い税制改革であったのは何とも皮肉なことである。これ一つとっても、現在の「楽観」の持続性は疑ってかかるべきではないか。そもそも「楽観」の出自に偽物の臭いがするのである。


米国の税制改革については、その需要刺激効果が、むしろ成熟化が進む米国景気の拡張を終わらせる可能性があるなどの懸念も拭えない。それと同じく気になるのは、米国世論へのインパクトである。既に、税制改革への世論の支持は必ずしも高くないと伝えられているが、これをきっかけに、トランプ政権を誕生させた現状否定的な空気が濃度を増し、不平等是正を求める世論が強まるなどすれば、中間選挙がばら撒き合戦の様相を呈する可能性が無視できなくなる。それは、税制改革によって大きくなりつつある政府財政の穴が際限なく広がる懸念を強め、部分的に高所恐怖症的な症状も見せ始めている金融市場のボラティリティを大いに高めることになろう。ここを起点に世界経済の拡大が止まるというのは「テールリスク」にすぎないだろうか?


さて、格差の拡大については、中国も負けていない。同じパリ経済大学のデータによれば、トップ1%の所得シェアは1980年の6.4%から2014年の13.7%に上昇しており、下位50%のシェアはこの間、26.7%から14.9%に低下した。変化率(不平等化が進む速度)で言えば、米国以上ともいえる。もっとも中国は一頃の勢いはないとはいえ、実質で6~7%の成長下にある新興国である。格差を拡大させながらも、それを下位層の所得底上げと両立させることはさほど難しくない。問題はそれができなくなった時である。


恐らく最適な解は、成長率の趨勢的な鈍化の過程で所得再分配機能を充実させ、不平等に歯止めがかかった段階で低成長期を迎えることだろう。それが不可能だった時、或いはそもそも、政府が不平等の深刻化を放置した時、不平等是正を求める社会的圧力に、中国政府はお得意の強権で臨むのだろうか。果たしてそれは可能なのだろうか。所得分配の不平等化というグローバル化しつつある病理が、いつ、どのような形で発症するのか、恐らく我々が長く付き合っていかざるを得ないテーマなのであろう。

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児玉 卓

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