グローバル投資家による日本企業の気候変動問題への対応の評価

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2017年12月27日

  • 伊藤 正晴

2017年10月にCDPから日本企業の気候変動問題への対応を評価した報告書「CDP 気候変動 レポート 2017: 日本版」が公表された。CDPは、世界各国の機関投資家によるイニシアチブで、2003年より企業の気候変動問題への取り組みなどの調査を行っている。また、CDPという名称はかつてのCarbon Disclosure Projectにその由来があるが、近年では水や森林などの領域にも活動範囲を広げている。


CDPは、気候変動問題への対応に関する質問書を作成し、質問書に対する企業の回答を評価している。「CDP 2017 気候変動質問書 回答ガイダンス(投資家、サプライチェーン)」によると、質問書は気候変動問題への対応に関連するガバナンス、気候変動に関するリスクや機会、排出量の測定や削減活動などの広範な内容で構成されている。気候変動問題への対応に関して、幅広い視点での評価を行い、その結果はAからDまで(それぞれの基準点に満たない場合は、A-からD-も存在)のスコアで表される。日本企業500社(ジャパン500)を対象とした評価では、283社が質問書に回答し、最上位のスコアであるAが付与されたのは13社(回答企業の5%)であった。また、A-は59社(同22%)、Bが79社(33%)となっている。海外の企業と比較すると、英国企業を対象とする英国FTSE350や米国企業を対象とする米国S&P500と、ほぼ同等レベルのスコアに達していると指摘されている。


ただ、気になるのは情報開示の姿勢である。日本企業の質問書への回答率は57%であるが、世界の主要企業を対象とするグローバル500の回答率は77%、米国S&P500は66%、英国FTSE350は57%となっている。毎年の報告書を見ると、日本企業の回答率は調査対象を500社に拡大した2009年が37%、その後40%台での緩やかな上昇傾向を見せ、2016年はようやく半数を超えて53%だった。2017年は前年より回答率の下がった英国FTSE350と同水準に至ったものの、グローバルや米国よりは依然として回答率の水準が低い。また、質問書に対する回答情報は公開、非公開が選択できるが、日本企業は全体の20%が非公開としているのに対し、英国FTSE350は12%、米国S&P500は7%にとどまっており、日本企業は非公開とする企業の比率が高い。CDPは、情報が非公開であると外部のステークホルダーが情報の信頼性を確認することが困難であり、スコアの信ぴょう性に疑問を投げかけられる可能性があるとしている。本邦企業には、情報開示に対する姿勢の見直しが期待されよう。


日本においてもESG投資への関心が高まる中、統合報告書を作成している企業が増えているなど、企業によるESG情報の開示が進んできてはいる。しかし、企業によって開示内容が異なるなど、複数の企業同士を比較するのは難しいことがあると指摘されている。また、機関投資家向けにESG情報を提供する機関が増えてきたが、個人投資家がその情報にアクセスすることは難しかろう。CDPの報告書は、評価対象が大企業に限定されているが、グローバル投資家による評価結果であることや、誰でも見ることができることなどから、機関投資家にとってはもちろん、個人投資家にとってもESGを考慮した投資の参考となろう。


気候変動問題への対応を進めることは、世界全体の共通課題となっている。企業においても気候変動問題への取り組みを進展させるとともに、CDPの質問書に対する回答に限らず、質、量ともに必要な情報の開示を進めることが求められる。そして、投資家がその情報を評価することで投資行動に適切な変容がもたらされ、経済社会の持続可能性が高まることが期待される。

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