早急な是正が求められる勤務医の長時間労働

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2017年12月26日

  • 亀井 亜希子

政府は、長時間労働の是正や過労死等の防止に向けて、働き方改革を推進しており、年明けの通常国会では、働き方改革一括法案が提出される見込みである。1週間の法定労働時間は、労働基準法第32条により、40時間と決められている。しかし、実際は残業が認められており、長時間労働が産業界全体の課題になっている。


平成24年就業構造基本調査により、性別・職種別の週労働時間が43時間以上及び60時間以上である正規雇用者及び非正規雇用者の割合(年間就業日数が200日以上の者、労働基準法の時間規定の適用が除外されている職種を除く)を図表に示した。男性は全63職種中60職種、女性は全61職種中35職種で、正規雇用者の半数超が週に43時間以上働いている。非正規雇用者で同じ基準に該当するのは、男性は全61職種中19職種、女性は全59職種中4職種である。つまり、長時間労働の問題は主に正規雇用者で生じている。長時間労働に明確な定義はないが、重要な目安である週労働時間が60時間超の割合が一定程度みられる職種は正規雇用者で多い。


現在、多くの職種で、長時間労働是正に向けた取組みが進められている。但し、「自動車の運転従事者」、「建設・土木事業従事者」、「勤務医」の職種は、週労働時間が43時間以上の割合が50%超と高いが、人手不足や職種の特殊性を踏まえ、前者2職種と、「勤務医」の宿直時間(当直の間に患者の診療等を行う「オンコール」を除く)は労働基準法において時間外労働の上限規制の適用除外である。そもそも医師には正当な理由なく診療を拒めない応召義務が課されているため、実態として長時間労働を余儀なくされている状況にあるといわれている。


特に、勤務医は、男女ともに、正規雇用者・非正規雇用者のいずれも、週60時間以上働いている者の割合が、全職種の中で1位、2位を争うほどの高い水準である。男性勤務医においては、正規雇用者で44.7%、非正規雇用者で46.8%と、半数に近い人数が週60時間以上働いている。医師に限らず、週労働時間が60 時間以上の場合、過重な労働が原因で脳・心臓疾患を発症してもおかしくない状態であり、1か月平均150人超が実際に発症し、発症者の半数近くが死に至っている(※1)


ここで勤務医には、一般職国家公務員に該当し労働基準法の適用外である国立病院及び国立大学付属病院の勤務医も含まれるが、民間病院の勤務医の労働時間も相当に長時間であることが推測される。慢性的な疲労状態は、健康上の問題のほか、医療過誤や医療事故の発生等、医療安全上のリスクも高めるため、長時間労働の早急な是正が求められる。


新たに導入される見込みの罰則付き時間外労働上限規制においては、医師については当面適用除外とし、全体の施行から5年後に適用される見込みである。医師の勤務実態を踏まえ、適用除外の職種の中では、勤務医の働き方改革に関する議論が先行しており、2020年を目途に規制のあり方や労働時間の短縮策等について結論が出される見込みである。


勤務医の労働時間は、診療時間(当直の間に応急患者の診療を行う「オンコール」を含む)の増加に加え、診療外時間(研究活動や論文執筆、学会発表、教育業務、カンファレンスの開催、カルテ整理、その他管理業務等に費やす時間)、当直時間(オンコールを除き、勤務時間外の院内での待機時間)の増加により長時間化している(※2)
医療の質を低下させずに労働時間の短縮を行うには、当直時間における時間の有効活用や、診療外業務の効率化にも目が向けられるべきであろう。勤務医の診療外時間における業務の生産性向上においては、民間企業の労働生産性向上の様々な取組みが参考になるかもしれない。

性別・職種別の週労働時間が43時間以上及び60時間以上である正規雇用者及び非正規雇用者の割合

(※1)過重な仕事が原因で脳・心臓疾患を発症した雇用者の1か月平均の時間外労働時間は60時間以上であった。(出所:厚生労働省「過労死等の労災補償状況」(平成25年度~28年度))
(※2)第2回医師の働き方改革に関する検討会 資料3「医師の勤務実態について」(平成29年9月21日開催)

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