Society5.0時代の大学院
2017年12月08日
第4次産業革命を進め、Society5.0と呼ばれる超スマート社会を実現するためには(※1)、高度化する社会を担う人材の育成が重要になる。高等教育機関への進学率が高い日本で、これまで以上に高度な人材を育成するためには、大学院における質の高い教育にも期待がかかる。政府も「知のプロフェッショナル」の育成(※2)に向け、大学院教育の改革に取り組んでいる。ところが、日本の大学院在学者数は25万人余りにとどまり、人口千人当たりにすれば2人程度にすぎない(図表1)。国によって教育の制度や状況などが異なるとはいえ、主要国との開きが広がっていけば、将来には大きな較差になることも懸念される(※3)。
2017年度の大学(学部)進学率(過年度卒含む)は、前年度から0.6ポイント上昇して、過去最高の52.6%を記録した。短期大学や専門学校等を合わせると、高等教育機関への進学率は80.6%に達している(※4)。一方、17年3月の大学(学部)卒業者(約56万7千人)のうち、大学院や外国の学校などに進学した者は6万8千人足らずにとどまり、大学(学部)卒業者の進学率は11.9%に低下している。入学者数の減少傾向は、修士課程だけでなく、博士課程や専門職学位課程でも見られており、社会人等を合わせた大学院入学者数は、10年度に比べて1万人以上少なくなっている(図表2)。
健康寿命の延伸などにより、ひとりの人が働ける期間が長くなる一方、人が担ってきた仕事の多くが、AIやロボットなどの機械に代替されていくことも予想されている。社会の変化を見据え、政府の教育再生実行会議からは、全員参加型社会や学び続ける社会に向けた提言も示されている(※5)。それでも、17年度に大学院に入学した社会人は1万7千人余りにとどまり、全国6千万人規模の就業者数からみると一握りにすぎない。日本の学生や社会人が大学院から遠ざかる傍ら、海外からの留学生は増加傾向にあり、近年の修士課程入学者数は、留学生が社会人を上回っている(図表3)。
発達した情報通信機能やAIなどを活用すれば、学ぶ場所や時間帯の制約が小さくなり、費用を削減することも期待できる。働き方が柔軟になり、通勤などの負担が軽減されれば、知的基盤の充実を図る時間や心の余裕も生まれやすくなる。実力が評価される機会が増えれば、学ぶべきことが見えやすくなり、学びへの意欲が高まる可能性もある。Society5.0の時代に向けて、大学院での学びと社会を結び付けていくためには、社会のニーズに合わせた教育サービスを提供することと合わせて、学びと社会に関わる仕組みも変えていく必要があるように思える。
(※1)「未来投資戦略2017-Society 5.0の実現に向けた改革-」首相官邸(政策会議)
(※2)「中央教育審議会:大学院部会-」文部科学省
(※3)「『諸外国の教育統計』平成29(2017)年版」文部科学省
(※4)「学校基本調査」文部科学省(平成29年度は速報値)」文部科学省(平成29年度は速報値)
(※5)「教育再生実行会議(第六次提言)」首相官邸
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