女性の活躍とガバナンス

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2017年11月01日

  • 物江 陽子

本年7月、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、日本株の三つのESG指数を選定し、これらの指数に連動したパッシブ運用を開始したことを発表した。ESG総合型2指数とともにテーマ型として「MSCI日本株女性活躍指数」が選ばれ、日本株全体の3%程度(1兆円程度)がこれらの指数をベンチマークとして運用されている。本年6月末時点でGPIFが運用する約149兆円という資金からすればごく一部ではあろうが、これまで曖昧だったESGについて指標が示された格好となり、日本企業にとって影響は大きいだろう。

関係者の間では、女性をテーマとする指数が選ばれたことは意外であると受け止める声も聞かれた。確かに、日本の資本市場で「女性の活躍」は必ずしも注目されてこなかった。だが、欧米では近年、ガバナンス改革のテーマとして取締役会のジェンダーダイバーシティ(性別多様性)が注目されてきた。米国では今年、株主総会シーズンを前に、取締役会のジェンダー・ダイバーシティを投資先企業とのエンゲージメントの重点テーマとする方針を複数の大手運用会社が表明した。ジェンダー・ダイバーシティが高い企業、つまり取締役会に女性が多い企業は、財務パフォーマンスもよく、贈賄や汚職などガバナンスに関する問題も少ない傾向が見られるという。取締役会に女性が加わることで、それまでになかった視点がもたらされ、”Group Think”(集団的浅慮)が避けられるためだと言われている。

もちろん、女性を加えれば自動的に企業のパフォーマンスが改善するわけではない。順序は逆だろう。企業のミッション遂行のために必要な人材を、属性にとらわれず多様な人材プールから選ぶことができているか。候補者が女性や外国人であることなどで何らかの壁があるのなら、その壁を取り除き、各人が生産性を上げやすい環境を提供できているか。そのような人材マネジメントができていれば、企業のパフォーマンス向上につながるだろうし、自然に組織の女性比率も高まるはずだ。

少子高齢化が進む日本では、この問題は特に重要だと考えられる。女性活躍指数に関してMSCI社は、「職場における高い性別多様性を指向・維持する企業は、より大きな人材プールにアクセスすることが可能なため、人材不足の環境によく耐えることができ、低いリスクのもとで持続的な財務パフォーマンスを生み出すことができると期待できる」と述べている(※1)。日本は今後、本格的な人口減少社会に突入していく。日本企業が今後も優秀な人材を確保するためには、人材プールの多様化を進めていかざるを得ないだろう。

最近、歴史ある日本の大企業で、組織的な不祥事が明らかになるケースが続いているが、確認してみると、業種の特性を考慮しても、女性比率がかなり低いケースが多い。一家の大黒柱として一つの組織で長時間、重責を担うことの多い男性と比べて、女性は職場の他、家庭や地域社会でも多様な役割と人間関係を持つことが多い。そのような外部の視点が組織にもたらされることで、風通しがよくなり、自浄作用が働くこともあろう。日本企業における女性活躍の遅れは、裏返して見れば、今後の改善の余地が大きいということでもある。今回の女性活躍指数の選定が、日本企業における女性の活躍が進み、よりよいガバナンスと経営パフォーマンスにつながる契機となることを願っている。

(※1)MSCI「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)~メソドロジー~」(2017年7月)

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