社外取締役選任義務化の議論、再び

~会社法制(企業統治等関係)部会を受けて~

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2017年10月25日

「社外取締役選任を義務化すべきですか?」
「確かに、そのように考えますが…」

何やら既視感のある質問に対して、筆者の回答は、数年前と比べて歯切れが悪い。これは何も、筆者が考えを変えたからでも、歳をとったからでも、ましてや人間が丸くなったからでもない。今回は、このあたりの事情について説明したい。

ご存じの通り、平成26年の会社法改正の際、社外取締役選任義務化を見送る代わりに、「社外取締役を置くことが相当でない理由」の説明・開示制度が導入された(会社法327条の2など)。それに加えて、改正附則において「施行後二年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずる」(改正附則25条)という定めが設けられた。現在、これを受けて、法制審議会に会社法制(企業統治等関係)部会が設置され、社外取締役選任義務化が再び議論の俎上に上っている。
冒頭の質問も、こうした事情を踏まえて出てきたものだろう。

「少なくとも上場会社には、社外取締役選任の法的義務を課すべき」という筆者の考えそのものにぶれは生じていない。しかし、この数年で、社外取締役を巡る上場会社の状況は一変した。すなわち、社外取締役を選任している東証上場会社は既に95.8%に達している。コーポレートガバナンス・コードの導入などを受け、2名以上の独立社外取締役を選任している会社も60.4%となっている(※1)

この数字を目の当たりにすると、筆者も、残り数%の上場会社に社外取締役を選任させるだけのために、法改正の時間とコストをかけることが、果たして費用対効果の点で本当に妥当と言えるのか、と悩んでしまう。ましてや、会社法制(企業統治等関係)部会で議論されているテーマの中には、他にも、上場会社のコーポレートガバナンスに影響を及ぼすと考えられる重要なものが多数存在している。例えば、株主総会資料の電子提供(いわゆるNotice & Access制度)、株主提案権の濫用的な行使の制限、取締役の報酬等に関する規律、会社補償、会社役員賠償責任保険(D&O保険)、社債管理、社外取締役がしてもよい行為としてはならない行為(業務執行との関連性)、重要な業務執行の決定の取締役への委任(監査役会設置会社における取締役会のモニタリング機能)などである。

同じような質問でも、質問の仕方を変えると、それに対する回答が変わる場合がある。仮に、冒頭の質問が、次のようなものであったら、筆者の回答も変わっていたであろう。

「今回の会社法改正の最重要テーマは、やはり社外取締役選任の義務化ですか?」
「それも確かに重要ではありますが、他に、重要なテーマがたくさんありますよ。」

(※1)株式会社東京証券取引所『東証上場会社コーポレート・ガバナンス白書2017』(2017年3月)74頁。2016年7月14日現在のデータに基づくとされている。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳