中国:深圳市の住宅価格の前年割れと、政府の住宅政策の在り方
2017年09月25日
2017年8月の中国の主要70都市の新築商品住宅価格前年比上昇率を見ると、最も低い都市は広東省深圳市であった。
図表のように深圳市の住宅価格は2015年後半から16年にかけてハイペースで上昇した。これは、新築物件の供給が少なかった一方で、ハイテク産業の一大拠点となったことで旺盛な需要が生まれたという特有の要因に加え、中国経済の減速を背景とする金融緩和策やチャイナショックを機に株式から大都市圏の不動産にマネーが流入したことなどが要因だと考えられる。しかし、次第に住宅価格の伸びは鈍化するようになり、2017年8月には前年同月比▲2.0%とマイナスに転じた。これは、2016年に当局が住宅価格を抑制するために、住宅販売抑制策を講じたためである。
深圳市の住宅価格の前年割れは、住宅価格は大都市では高騰する一方、地方都市では低迷し、全国的に二極化しているという従来の様相が変わりつつあるということを示している。というのも、北京や上海といった1線都市だけでなく、2線都市でも不動産価格抑制策は採用されており、住宅販売も減少に転じていることから、価格上昇率が低下しており、いずれ価格が下落に転じることが予想される。その一方で、西部や東北部などのいわゆる3線都市や4線都市では、1線都市や2線都市に流入していたマネーが流入することなどにより、住宅在庫も削減されており、住宅価格は堅調に推移している。
以上から、過熱していた1線都市や2線都市といった大都市圏の住宅価格は抑制されつつある一方、在庫が積みあがっていた3線都市や4線都市では在庫削減が進むなど、政府の住宅市場のコントロールは成功しつつあるといえるだろう。
中国では、今回だけでなくこれまでも住宅価格が下落した際には、住宅販売促進策を実施し、住宅価格が過熱すれば、住宅販売抑制策を打ち出すなど、政策によって住宅価格のコントロールを行ってきた。しかし、政策によって住宅市場が大きく左右されることが市場の歪みの温床となっているのも事実である。特に、経済成長のカンフル剤として、住宅需要を喚起した結果、住宅価格の高騰を招いたり、4兆元の経済対策で需要を大きく上回る住宅建設を行った結果、地方都市で住宅在庫が急増するなどの問題が生じたりした。将来的には、徐々に政府による不動産市場への関与を減らし、価格の需給調整が機能するような健全な市場が形成されることが望まれるが、道のりはまだまだ遠い。

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