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「監査報告書の透明化」が有効に機能するためには

2017年08月24日

吉井 一洋

今年の6月に金融庁が「『監査報告書の透明化』について」を公表し、今後、企業会計審議会において具体的な検討を進めていく方向性が示された。
そもそものきっかけは、IAASB(国際監査・保証基準審議会)が2015年1月に改訂したISA(国際監査基準)である。改訂後のISAでは、会計監査人(監査法人)に対して、監査上の主要な事項(KAM)を監査報告書に記述することを求めている(※1)。KAMとは、「当年度の財務諸表監査で最も重要な事項」であり、会計監査人が企業のガバナンスの責任者(監査委員会の監査委員や監査役などを指す)とコミュニケーションを行った事項の中から決定される。重要な虚偽表示があるリスクの高さ、経営者の判断への依存度合い、重要な事象・取引の監査への影響を考慮して、会計監査人が特に注意を払った事項を抽出し、そのうち最も重要な事項をKAMとして、その内容と次の①~③の記載を求めている。
①財務諸表に関連する情報が開示されている場合は、その情報への参照
②当該事項が監査にとって重要であり、KAMであると判断した理由
③当該事項に対する監査上の対応
既に英国では同様の制度が先行して導入されており、EUでは2017年度から同様の制度が導入される。米国でも、同様の制度を2020年度まで(※2)に導入することが決定された。

わが国の会計監査人の監査報告書は、1枚紙で財務諸表が適正に作成されているか否かについての意見を述べるのみだが、KAMが導入されれば、監査報告書の情報価値は高まる。アナリストや機関投資家は、100%虚偽表示がない財務諸表や100%完璧な監査はあり得ないことを既に知っている。であれば、財務諸表のどの部分に虚偽表示のリスクがあるかを知ることは有用であるし、企業と対話する際の手掛かりとなることが期待される。
昨年の8月にこのテーマを取り上げた際には「長文化」という語を用いていた(※3)。しかし、単に記述が長くなるだけではあまり意味はない。KAM導入の趣旨は、監査を「透明化」し市場規律を働かせることにより監査の品質を向上させることにあると思われる。そのためには、KAMはボイラープレート(決まり文句)でなくわかりやすい記述が求められる。それとともに、KAMの関連項目について、企業が対話の材料となるだけの十分な情報を財務諸表や注記で開示している必要がある。しかし、開示情報を拡充するため個々の会計基準や規則を見直すのでは時間がかかる。であれば、KAMとして指定された項目について開示情報の不足を会計監査人から指摘された場合に、企業に追加開示を義務付けてはどうであろうか?

他方で、KAMに関する対話を通じて、監査役(または監査委員)の重要性が高まることが予想される。会計監査人には被監査企業に対する守秘義務がある。したがって、アナリストや機関投資家が個々の監査内容について会計監査人と対話を行うことは難しい。その代わりとして、監査役と対話を行うという例が増えることが期待される。というのも、監査役は、KAMに関して会計監査人と対話を行うことが想定されているからである。監査役が、アナリストや機関投資家の目線を、会計監査人に、対話を通じて伝達することで、会計監査人が財務諸表利用者の目線で監査を行う助けとなることも期待できる。英国の例に倣い、有価証券報告書で、監査役が重要と考える項目を記載した監査報告書を、会計監査人の監査報告書と対比する形で掲載することも、検討していいように思われる。

(※1)新基準は2016年12月15日以後に終了する事業年度から既に発効している。
(※2)大規模早期提出会社は2019年6月30日以後に終了する事業年度、それ以外は2020年12月15日以後に終了する事業年度の監査から導入。
(※3)監査報告書の拡充(長文化)(大和総研コラム、2016年8月17日)

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