富裕層向けインバウンドビジネスの拡大機会

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2017年07月31日

  • 笠原 滝平

2016年に入り、一時勢いに鈍化の懸念が生じていたインバウンド消費(訪日外国人による消費)は足下で再び増加傾向に転じている。2017年6月の訪日外客数は234.7万人と6月として過去最高を記録し、上半期累計では1,375.7万人と昨年を20%近く上回る伸びとなっている。さらに、2017年4-6月期のインバウンド消費額は1兆776億円と前年から10%以上増加している。

このようにインバウンドが数年に亘って活況である背景には、円安方向に推移した為替相場やビザの発給免除措置、免税制度の拡充、航空ネットワークの拡大などが考えられる。特に、手前味噌であるが筆者が共同で行った研究では、訪問元の国の所得の増加やビザの発給免除措置などが訪日外客数の増加に寄与していることが示された(※1)。所得や為替相場など外部環境に加えて、政府をはじめとした誘致政策・施策がインバウンドの拡大を促していると考えられる。

さらに、インバウンド活況初期の消費の対象は「モノ消費」が中心であったが、その後、体験型の「コト消費」などサービスにも広がった。最近では、ムスリム(イスラム教徒)への食事面等での対応や富裕層向けサービスなどより細分化したターゲットに訴求したインバウンドビジネスが盛んになっている。

観光庁の2016年訪日外国人消費動向調査において、訪日外国人の世帯年収を調べる項目がある。世帯年収のレンジは500万円未満、500万円以上1,000万円未満、1,000万円以上2,000万円未満、2,000万円以上3,000万円未満、3,000万円以上の5つに分けられている。ここでは、世帯年収2,000万円以上を富裕層と定義して着目する(以下「観光・レジャー目的」のデータ)。全体平均の富裕層比率(世帯年収項目の回答数に占める2,000万円以上の割合)は4.3%となっている。国籍・地域別に見ると、中国(3.3%)や台湾(1.9%)など近隣アジア諸国が全体を下回り、米国(20.6%)などが全体を上回っている。一方、消費単価を見ると、世帯年収2,000万円以上の全体平均(回答者数で加重平均)は23.3万円であるのに対し、世帯年収2,000万円以上の中国の消費単価は35.2万円、米国は30.0万円となり、富裕層比率と逆転現象が起きている(※2)

これらのことから、一見すると米国の富裕層の誘致に成功しているように見えるが消費額は少なく、一方で中国からの富裕層には多くの消費機会を提供できていることがわかる。富裕層向けインバウンドビジネスをさらに拡大させるには、米国などの富裕層をターゲットとした消費促進策や中国など近隣アジア諸国の富裕層の誘致策が有効であると考えられる。

(※1)浦沢聡士、笠原滝平(2017)「経常収支にみられる構造的な変化:インバウンドの実証分析」一橋大学経済研究所『経済研究』第68巻第3号
(※2)世帯年収2,000万円以上の中国からの訪日外客の平均泊数は5.6泊であるのに対し、米国からの訪日外客が8.8泊と長いため、一日当たりの消費額の差はさらに大きい。

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