今そこにある危機としての気候変動問題

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2017年07月21日

  • 河口 真理子

7月になり、30名以上の犠牲者がでた九州北部の豪雨災害をはじめ、日本列島各地で異常豪雨の被害が毎日のように出ている。18日は関東でも局地的な雷雨に見舞われ、各地で停電や浸水が発生、雹によって屋根やガラスが破損するなどの被害が出た。ネットにアップされた雹がシャワーのように降る映像からは切迫した気配が伝わってくる。この異常気象は日本だけでなく、世界各地で数年前から頻繁に起きている。中国での大洪水、欧州での異常乾燥による山火事、毎日世界各地で何らかの異常気象の被害が出ている。

最近天気予報では「今まで経験のないような」「直ちに命を守る行動を」という今まで聞いたことのないフレーズが当たり前に聞かれるようになっている。環境問題に関心の薄い人には、突然荒れた天候が増えている、くらいの認識かもしれない。しかし環境問題に多少でも関わってきた人には残念ながら「想定通り」なのである。

こうした異常気象はCO2などの温室効果ガス増加による温暖化が引き起こす可能性が高いことは以前から指摘されてきた。人間活動によってCO2濃度は産業革命以前280ppmから1990年には350~360ppmに増加していた。気候変動問題の世界的権威IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が1990年に出した第1次評価報告書では、これ以上の温暖化を食い止めCO2濃度を安定化させるには排出量を直ちに60%以上削減する必要があると指摘されていた。

しかし昨年2月ごろにはCO2濃度が400ppmを超え(※1)、世界の平均気温は100年あたり平均で0.72度、日本は1.19度上昇したとの報告がなされた。因みに2015年締結されたパリ協定では気温の上昇幅を2度未満に抑えるための条件は450ppmとしたが、すでに産業革命から120ppm増加させたので、もう残りは50ppmもないのである。

温暖化問題が指摘されてきたにも関わらず、なぜ「順調」にCO2濃度を増加させてきたのか?
それは、人間社会が「人間の都合」を優先させ「地球の都合」を無視してきたからに他ならない。
IPCCの報告を受けて7年後に京都で開催されたCOP3では温暖化を食い止めるため京都議定書が締結された。しかし、その内容は「先進国が10年以上先の2008~2012年の間に5%排出量を削減する」という「1990年直ちに6割」からするとなきに等しいものだった。各国の政治、経済情勢という「人間の事情」が複雑に絡み合うなかで、合意に達することができただけでも成果だったとは言えよう。しかしその後途上国だった中国の排出量が急増し、米国が離脱したため、その程度の縛りではブレーキがかかるはずもなかった。2015年のパリ協定では、反省も込めて、途上国も含め2度未満を目指して各国が削減する旨決議された。しかし早くも米国が離脱するなど「人間の事情」が幅をきかす。

子どもの頃、夏休みの宿題を「早くやりなさい!」と親に言われても、「まだ時間あるし~」「友達とプールにいく」「ノートが切れた」などと言い訳をして先延ばし、8月25日ごろ、親に「お小遣いなし!」と怒られ、焦ってやった経験はないだろうか?夏休みは長く宿題をやる時間はいくらでもあるように感じて、調子に乗って遊んでいると親の堪忍袋の緒が切れ、夏休みも終わる。

「地球温暖化はずっと先の話でしょ?そんなことより経済が大事だから」と「地球の事情」をないがしろにしてきた人間に、そろそろ地球の堪忍袋の緒が切れかけている。

(※1)国立研究開発法人 国立環境研究所プレスリリース「気候変動を取り除いた全大気平均二酸化炭素濃度が初めて400ppmを超えました!」

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