気になる電気料金の見通し

RSS

2017年07月20日

  • 大澤 秀一

今年も暑い夏がやってきた。冷房の使用が増えると電気料金が気になるが、ここでこれまでの年度別電気料金(単位電力量あたりの単価、全国平均)の推移とその変動要因から今後の電気料金を見通してみたい。

2010年度末に発生した東日本大震災の後、全国各地で原子力発電所が相次いで停止したことや原油価格の高騰等により電気料金は大幅に上昇した。実際の発電燃料は原油(石油)よりもLNG(液化天然ガス)の方が圧倒的に多いが、日本の輸入LNG価格は契約上、輸入原油価格に連動するので、原油価格が電気料金の変動要因になる。

家庭用の電気料金は2014年度までに約25%(2010年度比、以下同じ)上昇し、産業用は約38%も上昇した。その後は原油価格が急落したことで、再生可能エネルギー発電促進賦課金単価(再エネ賦課金)の上昇分を吸収しながらも電気料金は低下傾向になった。直近(2016年度)では家庭用は約10%、産業用は約14%だけ高い水準に収まっている(※1)

現在の原油価格は震災前の水準以下なので、今後も原油価格が現在の水準を維持し、さらに原子力発電所の再稼働が進めば、再エネ賦課金は今後も上昇するものの電気料金は2010年度の水準にもう少し近づくと考えられる。

電気料金の変動要因として今後、重要になってくるのは2016年度から始まった電力小売の全面自由化による事業者間の競争だろう。競争は始まったばかりだが、家庭用に限れば、小売業に新規参入した新電力事業者の料金単価は、みなし小売電気事業者(旧一般電気事業者、つまり10電力会社の小売部門のこと)に比べて約4%、0.9円/kWh(2016年度)安くなっている。

0.9円/kWhしか差が開いていない理由は、みなし小売電気事業者と同じ資本系列の旧一般電気事業者の発電部門が全電源の大半を保有しており、新電力事業者が保有する電源は全体の約1%にとどまるからだと政府は分析している。つまり、小売電気事業者の競争力の源泉は発電設備にあるということだ。

ただし、この説明には違和感がある。みなし小売電気事業者が系列取引で安価な電力を優先的に仕入れることができる状態は公平とは言えない。新電力事業者にとっても旧一般電気事業者の発電部門が卸電力取引所に供出する相対的に高価なわずかな量の電力を仕入れていては経営努力にも限界がある。

誰もが十分な量の電力を透明性のある価格で調達できる卸電力取引所の存在は、小売電気事業者の競争を促す上での前提条件であろう。小売電気事業者の競争力の源泉は卸電力取引所における調達能力と最終消費者に対するサービス力であるはずだからだ。

原油価格は新興国の経済発展に伴い中長期的には上昇することが予想される。また、再エネ賦課金も上限目標は設けられているものの今後しばらくは上昇することが見込まれる。こう考えると、電気料金を抑制していくためには小売電気事業者の競争が重要な役割を持つ。小売電気事業者が本来の小売サービスに邁進できるよう、政府には卸電力取引所の活性化に早急に取り組んでもらいたい。

(※1)資源エネルギー庁「電力小売全面自由化の進捗状況」2017年7月7日。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。