配当を倍にすると株価はどうなるか?

RSS

2017年07月04日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 太田 達之助

2016年度の上場企業の配当総額は、約11.8兆円と過去最高を記録した。増配を実施した企業の比率は30%以上にのぼっている。企業財務理論では配当政策は株価に中立であると言われるが、実際には大幅な増配は株式市場で好感されている。
その理由として、「大幅増配は将来業績への自信のあらわれ」、「株主利益に対する意識の向上」などがあげられる。では、配当を倍にすると株価はどうなるか?その企業の置かれている状況により市場の反応が異なるのは当然であるが、株価が2割から3割上昇するケースが多い。
配当の倍増によって株価が上昇する条件は、1株当たりの配当額に下方硬直性を持たせる工夫をすることだ。高水準の配当を継続できるだけの財務基盤を有することも必要条件といえる。

あまり広く知られてはいないが、米国企業は配当を減らすことについて極めて慎重である。50年以上連続で増配をしている企業として、P&G、コカ・コーラ、ジョンソン&ジョンソンなどが有名であるが、100年以上減配をしていないダウ・ケミカルの例もあり、配当を減らす企業の経営者は市場から強いプレッシャーを受けることになる。リーマン・ショック後に経営が破たんしたGMでさえ、チャプター・イレブン申請直前まで配当を据え置いていたほどである。30%前後の目標配当性向を定めて、減益になると即減配する企業が未だに存在する日本の感覚とは好対照である。
「高水準の配当で、よほどのことがない限り減配しない」という姿勢があれば、一時的に業績が落ち込む懸念が生じても、配当利回りが下支えになり株価が下落しにくくる。したがって、長期保有の投資家を呼び込みやすいといえる。逆に、目標配当性向を定めて減益即減配するような企業は、インカムゲインを狙う長期投資家を呼び込むことが難しいし、株価が割安になりがちである。30%の目標配当性向を未来永劫続けるとしたら、株価は理論的にはフェアバリューから70%ディスカウントされることになる。

日本経済新聞の集計によると、2016年度の上場企業(金融を除く)の自己資本比率は40.4%まで上昇し、集計可能な1982年度以降で過去最高になったという。資本が過剰となり、もはや資本の蓄積が不要な企業も多い。日本企業が大幅増配を行えるポテンシャルは高いのである。
2016年度末時点での上場企業の時価総額が約580兆円であるから、日本企業の配当利回りは約2%ということになる。面白いことに、米国企業の配当利回りも約2%である。ただし、平均株価が上昇を続ける米国においては、インカムゲインが株主リターンの一部を構成するに過ぎないが、長期で平均株価が上昇していない日本においては、株式投資家にとってインカムゲインが極めて重要だ。大幅増配など配当政策の積極的な見直しによる株式の魅力向上が、株式市場活性化の起爆剤になるのである。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

太田 達之助
執筆者紹介

コーポレート・アドバイザリー部

主席コンサルタント 太田 達之助