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タワーマンション火災でさらに苦境にたつメイ首相

2017年06月21日

ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 菅野 泰夫

今年に入り、英国ではテロが相次ぎ、駐在員事務所の従業員家族の安否を何度確認しただろうか。物騒な事件が続く中、6月14日に、ロンドン中心部であるケンジントン・チェルシー地区の低所得者向け公営住宅(カウンシルハウス)のグレンフェル・タワーで火災が発生し多くの死傷者が出た。火は15分ほどで24階建ての建物全体に燃え広がり、その予想を上回る火の手と煙で十分な救助ができなかったとされている。現場は筆者の自宅から数キロの所にあり、6月3日のロンドンブリッジのテロ発生日と同様、真夜中にサイレンが鳴り響いていた。

火の回りが早かった理由の一つに2016年に追加された外装に燃えやすい素材を使った(加えて、その外装と壁面の隙間が煙突の様になった)可能性などが指摘されている。ロンドン市内の建物は1986年まで“ロンドン建築法”の適用対象であり、室内へ火の手がおよぶことを防ぐため、外壁は一定時間以上の耐火性を持つことが要件とされた。しかし、この規定は廃止され、外壁の非可燃性の要件は緩和されていた。当該マンションは1974年に建築されたもので、日本では古い建築物として紹介されているがロンドンでは比較的新しい建物である。英国では景観規制が厳しく、新築建物の認可がなかなか下りず、築100年程度の建物はざらにある。カウンシルハウスの建て替えは現住民の行き場の確保が必要となるが、不動産価格の高騰が続いたロンドンで、それは容易なことではない。このため改築を余儀なくされ、外観だけでも奇麗に新しく見せようと外装を追加する自治体も多いと聞く。不動産投資が好まれるお国柄で、古い物件を改築して、高値で売り抜けることに醍醐味を感じる向きも多い。見た目を重視し、改築作業がずさんだったという住民の声もあり、外見だけ取り繕おうとしたツケが住民である低所得者層に回ってきたとの指摘もある。

また特に今回、犠牲者が増えたのは、マンションでの火災時マニュアルどおり自宅待機に徹したことが理由とみる向きもある。英国の地方自治体が用意している高層建物での火災時の避難マニュアルを見ると、たしかに自分の部屋で火災が発生した時以外は、室内にとどまり消防隊の救助や指示を待つことが推奨されている。パニックになった高層階の住民が非常階段に押し寄せれば、消防隊員の邪魔になり、消火活動どころではなくなる。
ただ無論これは、スプリンクラーや防火ドアが整備され、火の手が火災発生階にとどまることが大前提となるため、ケース・バイ・ケースであろう。筆者が以前住んでいたロンドンのマンションでも管理室から火災が発生したことがある。その時はボヤで済み、煙も炎も自室からは全く見えなかったが、警察官が猛烈に玄関のドアをノックして避難を促され、真夜中の午前2時に子供を抱えて避難したことがある(築80年を超すこの駐在員向けマンションの火災報知器は鳴らなかった)。
グレンフェル・タワーの建築時にはスプリンクラーの設置は義務化されておらず、2016年に完了した改築でも設置はされなかった。このため、当該マンションの10階に住む幼い子供のいる一家は、火災発生を知るや濡れたシーツを子供に巻きつけ、すぐに避難することで助かった。一方、同じく住民でシリアから来た兄弟のうち、兄はすぐに逃げて助かったが、弟は室内にとどまり消防からの助けを待ち続けたために助からず明暗を分けた。室内にとどまり消防隊の指示や救助を待ったことが、結果的に被害者数の拡大につながったといわれている。

またタワーの住人は、避難経路である(非常)階段が一つしかないことへの不安を、以前から管理会社や自治体に何度も訴えていた。ただ何らの対処も取られなかったことで、低所得者の声を無視してきたとして自治体はもとより、緊縮財政を進めてきたメイ首相をはじめとする英国政府に強い怒りが向けられている。現場を視察した際、被害者の動揺を招きたくないと遺族と面会しなかったメイ首相に対する風当たりは特に強い。6月8日に実施された英国総選挙では、長らく保守党の地盤とされた(タワーがある)ケンジントン・チェルシー選挙区で、労働党候補者が歴史的な勝利を収めている。絶対的選挙地盤にあぐらをかき、住民の声に耳を傾けなかった与党保守党の敗北は象徴的である。国民の痛みに鈍感だった与党保守党の「負けに不思議の負けなし」である。

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菅野 泰夫

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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 菅野 泰夫