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日本企業の「稼ぐ力」から見た賃上げ余力は?

2017年06月20日

金融調査部 主任研究員 長内 智

現在、日本企業の経常利益は過去最高水準にあり、労働需給もバブル期並みに引き締まっている。しかし、世の中では、景気回復の実感に乏しいとの声が少なくない。これは、企業の収益拡大ペースに比べて賃金上昇ペースが緩慢なものに留まっている影響が大きいのだろう。バブル期は、毎年のように賃金が明確に上昇する中で、買い物やレジャーを大いに楽しんでいたとの話を聞く。当時に比べると、現在の景況感は隔世の感がある。

こうした中、明確な賃金上昇を実現するために、過去最高水準に積み上がっている企業の内部留保を取り崩せばよいとの議論がこれまで何度も繰り返されてきた。この内部留保とは、企業が溜め込んだ利益を示す言葉であり、企業の財務諸表における「利益剰余金」のことを指すことが多い。もし、それが可能であれば、労働者の賃金を押し上げるとともに、消費拡大を通じて経済再生にも寄与する。

しかし、この議論は、持続的な賃上げの原資として内部留保は利用できないという結論に行き着くことになる。なぜなら、内部留保は必ずしも現金・預金など自由度の高い資金と紐づいていないこと、仮に手持ちの現金・預金を人件費に充当する結果として内部留保を取り崩せたとしても、ひとたび使い切ってしまえば、それ以降は利用できないからだ。内部留保を持続的な賃上げに回すという案は現実的ではないだろう。

そのため、賃上げの原資に関しては、内部留保から一旦離れて他の原資を考えなければならない。具体的には、企業が毎年生み出している「付加価値額」が重要だ。法人企業統計年報に基づくと、日本企業(除く金融業、保険業)の付加価値額は、2012年度から2015年度にかけて+7.8%増加した一方、給与などの人件費は+0.7%の増加に留まっている。明らかに、企業の生み出した付加価値額に比べて人件費の伸びは限定的であったと言えよう。

さらに、付加価値額に占める人件費の比率を示す「労働分配率」は、2012年度の72.3%から2015年度の67.5%へと▲4.8%ptも低下した。簡単に言い換えれば、労働者の取り分が相対的に減ったということだ。これは企業収益が改善する中で、多くの労働者が景気回復を実感できていない現状と整合的だと言える。それでは、付加価値額(除く人件費)の増加分を追加的に人件費に配分していたら、どの程度の押し上げ効果が生じるのだろうか。

現実的には、付加価値額(除く人件費)の増加分を全て人件費に充てることができないため、ここでは増加分の30%、50%、70%を人件費に上乗せしていたと仮定して試算する。その場合、2012年度から2015年度にかけての人件費の増加率は、それぞれ+1.7%、+2.3%、+3.0%となり、実績値の+0.7%から明確に押し上げられる。つまり、近年の日本企業の付加価値額の伸びを踏まえると、さらなる賃上げ(≒人件費の増加)も可能であったと評価できる。

当然、付加価値額の配分は企業の経営方針などに依存する。しかし、今後も企業が「稼ぐ力」を高める中で、付加価値額の増加分を今以上に賃上げにも振り向けることに期待したい。それにより、日本経済の好循環が再起動し、多くの人が景気回復を実感できるようになるだろう。

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長内 智

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金融調査部
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