ESG投資と「21世紀の受託者責任」

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2017年06月14日

  • 伊藤 正晴

2017年4月、PRI(国連責任投資原則)、UNEP FI(国連環境計画金融イニシアチブ)、Generation Foundationが日本におけるESG課題への対応や受託者責任に関する現状と提言を“Japan Roadmap”として公表した。この報告書は2015年9月に公表された“Fiduciary Duty in the 21st Century”(邦訳「21世紀の受託者責任」)のフォローアップとして作成されたものである。“Japan Roadmap”では、「スチュワードシップとエンゲージメント」、「コーポレートガバナンス」、「年金基金のESG情報開示とガイダンス」、「企業の情報開示」、「アセットオーナーのリーダーシップ」の5つの分野について、日本の機関投資家や企業、政府当局、日本取引所グループ(JPX)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など幅広い関係者に向けた提言がまとめられている。

もともと、財務情報以外の情報を重視する投資は社会的責任投資(SRI)と呼ばれ、教会資産の運用で武器やアルコール等、宗教的価値観などに反する企業を投資対象から除くなど、倫理的な観点を重視する投資から始まったとされる。その後、投資判断に環境や人権などさまざまな課題を考慮する投資が拡大し、責任投資やサステナブル投資と呼ばれるようになった。ESG投資は責任投資の一分野と考えられているが、その成り立ちから倫理的な評価基準を持った投資と捉えられることがあり、委託者(顧客)の利益の最大化のみに専念し、専門家として注意、技量、思慮深さおよび勤勉さを用いて業務にあたるという受託者責任との関係が議論されてきた。

特に、従業員退職所得保障法(ERISA)で、受託者責任の順守を厳しく求められている米国では、受託者責任が責任投資を行わない理由ともなっていたようである。しかし、米国労働省が「ESG要因の考慮で優れた運用成果が期待できること」や「他の投資手法と同等なリスク・リターン特性を示すこと」を満たす場合は受託者責任に反しないという解釈を出すなど、ESG投資と受託者責任との関係が整理されてきた。そして、「21世紀の受託者責任」では「投資実務において、環境上の問題、社会の問題および企業統治の問題など長期的に企業価値向上を牽引する要素を考慮しないことは、受託者責任に反することである。」としている。これまでは、条件付きではあるがESG要因を考慮する投資が受託者責任に反しないとされていたのとは逆に、ESG要因を考慮しないことが受託者責任に反するとしたのである。また、ESGの「総本山」ともいえるPRIが、ESG投資と受託者責任との関係を示したことや、“Japan Roadmap” で日本への提言をまとめたことは、投資家だけでなく、政府当局、ステークホルダーなどにとっても有益なものとなろう。

しかし、ESG投資はESG要因が企業価値や投資パフォーマンスに関係していることが大前提となっているが、実証的な分析は十分とは言えないようである。資産保有者(投資家)、資産運用者、規制当局に対するインタビュー調査に基づく「21世紀の受託者責任」でも、コーポレートガバナンスの問題が投資パフォーマンスへ与える影響は確実な検証がなされているのに対し、社会や環境の問題と投資パフォーマンスとの関係は明瞭でないことが多いとしている。今後、どのようなESG要因をどのように用いることが企業価値に関係し、投資パフォーマンスに影響するのかなどの実証分析のさらなる蓄積が求められよう。

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