進学社会減と進学格差

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2017年06月08日

  • 岡野 武志

平成28年10月1日現在の日本人人口は、前年に比べて30万人ほど減少し、約1億2千5百万人となった(※1)。死亡者数が出生児数を上回る人口の自然減が続き、減少幅も年々拡大している。東京や大阪などの大都市やその周辺地域(大都市圏)以外では、人口の自然減だけでなく、転出者数が転入者数を上回る社会減が進む地域も多い。働き手となる若者が転出してしまう地域では、人口減少に伴う消費需要の縮小に加え、後継者難による廃業や人手不足などにより、地域がさらに衰退していくことが危惧される。

若者の地域外への転出は、大学進学がきっかけになることも多い。平成28年度では、出身高校が所在する都道府県以外の大学に入学した者は約34万人となっている(※2)。交通網が発達した大都市圏では、自宅から通学可能な範囲が広く、他の地域から進学してくる学生も多いため、人口の社会増が見られる地域もある。一方、希望する大学に進学するために転出する若者が多い地域では、他県への進学に伴う「進学社会減」は、地域の人口減少を加速させる要因の一つになっている(図表1)。

進学社会増減と人口社会増減

進学社会減の状況をもう少し詳しく見ると、大学進学者数(※3)が少ない地域には、地域内の大学への進学率が低いだけでなく、大学への進学率も相対的に低い地域が多いことに気付かされる(図表2)。他県への通学が難しい北海道や沖縄県では、地域内の大学に進学する比率は高いが、大学進学率は全国平均を大きく下回っている。自らの意志で大都市圏の大学などに進学を希望する若者も多いとは思われるが、高校卒業を前に、地域外への進学か、大学進学を断念するかの選択を迫られる若者も少なくないことが推察される。

大学入学者数と大学進学率(平成28年度)

大都市圏には多数の大学が設置され、他県からも多くの進学者を集めているのに対して、大都市圏以外の地域に設置されている大学の数は限られている(図表3)。大学設置数と大学進学者数の関係をみると、大学が提供する教育サービスの利用しやすさが地域によって大きく異なる「進学格差」は、一つの構造として定着してしまっているようにみえる。進学格差が進学社会減の原因となり、多くの若者に大学進学を断念させているとすれば、地域人材の確保や育成を進める上では、改善すべき重要な課題の一つといえるであろう。

都道府県別 大学設置数と大学進学者数(平成28年度)

情報通信機能が急速に発達し、テレワークや遠隔医療なども広がる今日、教育サービスにも変革できることは少なくない。座学型の講義であれば、遠隔地からでも知識や情報を伝達することはできる。実験や実習、アクティブラーニング型の授業などでも、多数の受講者が移動するより、教える側が地域を訪れる方が合理的かもしれない。人口減少が進む中、地域に多数の大学を新設することは難しいが、大都市圏の大学と地域の大学、大学と企業・公的機関などが連携すれば、イノベーションを起こせる範囲は広がるであろう。

人工知能の活用範囲が広がり、自動化・機械化などが進む社会では、すでに社会人になった人々が、教育サービスを利用する機会も増えてくる可能性がある。変化する社会で活躍できる力量を獲得するために、働きながら学ぼうとすれば、教育サービスが提供される場所や時間の制約は小さい方が望ましい。大きく変化する社会では、教育サービスにも、これまでの延長線上にはない、新たな変革が求められているように思える。

(※1)「人口推計(平成28年10月1日現在)」総務省統計局
(※2)「学校基本調査-平成28年度結果の概要-」文部科学省
(※3)大学進学者数は、都道府県内からの入学者数と都道府県外の大学への入学者数の合計

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