新たな民泊制度は果たしてどうなるのか
2017年06月05日
3月10日に国会に提出された住宅宿泊事業法案(民泊新法案)が、5月25日に衆院の国土交通委員会に付託された。今国会での法案可決の有無にかかわらず、制度設計の詳細は政令以下に委ねられているため、関係者は当面、具体的な対応が取りにくい状態が続くものと思われる。
同法に基づく新たな民泊制度の焦点のひとつは、やはり事業日数の上限である「180日」をどのようにカウントするかである。民間の立場から政策提言を行っている新経済連盟は民進党への要望資料(※1)の中で、「1泊分の料金を収受した場合は『1日』としてカウントすること」などを求めている。仮に2泊3日を想定するならば2日のカウントとなるため、「180日=180泊」という考えは、一見問題ないようにも思える。
しかし、カレンダー上で隙間なく180泊の稼働を想定するのは困難であり、2泊3日のような通常の利用でアウトと次のインが同日とならないことが多ければ、180泊を認めてしまうと使用期間としては180日を遥かに上回る可能性がある。「住宅宿泊事業法」はあくまでも料金をとって「住宅」に人を宿泊させることを制度化するものだから、それは「住宅」と言えるのかという疑問が生じるのではないか。日数のカウント方法は新たな民泊制度を左右するほど重要な問題である。
また新経済連盟は、条例で過度に時期を制限しないよう求めている。法案は騒音防止などの合理的な必要性があれば条例による制限を認めているが、その基準の詳細は現時点で明らかではない。立法趣旨を骨抜きにするような規制を敷くことはないとしても、ゴールデンウィークや夏休み期間のみ営業を認めるといった、繁忙期以外の宿泊を条例で制限する自治体が出てくるかもしれない。ただ、区域を十分には限定せずにそれが行われれば、既存のホテル・旅館業界の顧客を民泊事業者に取られないためといった側面が色濃く出てしまうだろう。
同時期に国会に提出されている旅館業法の改正によって、違法な民泊サービスの摘発が強化される可能性があるが、仮に強化される規制の運用があまりにも厳しければ、国内外の観光需要を実現するための民泊サービス市場の健全な拡大を妨げる可能性が出てくる。逆に過度に緩い運用となってしまうと、既存の旅館やホテル等が健全性を欠く競争を強いられるおそれがある。オリンピック・パラリンピック開催の2020年まで、あと約2年半。果たして、書き入れ時を迎えようとしているインバウンド客の取り込みに、新たな民泊制度が応えることができるのか。バランスのとれた制度設計詰めを慎重かつ素早く行う必要がある。
(※1)新経済連盟「住宅宿泊事業法案(いわゆる民泊新法)に対する考え方」(2017 年4月26日)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月26日
銀行等の業務範囲・5%ルールなどの見直し
銀行制度等WG報告
-
2021年01月25日
2021年のASEAN5経済見通し
景気回復は年後半に加速。懸念が多いタイとフィリピン。
-
2021年01月25日
税金読本(16-2)税務署への財産債務の申告と国外転出時みなし譲渡益課税
-
2021年01月22日
金融商品の評価
金融商品の価値はどのように算定するのか?
-
2021年01月27日
多様性を受容する社会は、きっと創造的で成長性の高いものになる
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?
-
2017年07月25日
ほとんどの年金生活者は配当・分配金の税率を5%にできる
所得税は総合課税・住民税は申告不要という課税方式