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史記とコーポレートガバナンス

2017年05月30日

風間 真二郎

漢の司馬遷著「史記」に以下のような話がある。

秦の権力を握った宰相趙高が家臣の忠誠を試すため、鹿を連れてきた。趙高が「これは馬だ」と。家臣達からは3通りの反応があった。1つ目は、「宰相、何を言っているんです、これは鹿です」と正直にいう者。2つ目は、おもねって「仰る通り、馬です」と言う者。そして3つ目は黙ってしまう者。趙高は、鹿と答えた者に後で罪を着せ処刑してしまう。その後は、誰も趙高に逆らえなくなった。

司馬遷は漢の人間だから、前王朝である秦のことをあること無いこと悪く記述したとも考えられ、上記の話の真偽の程は定かではない。それにも関わらず、二千年以上も伝えられてきたのは、現代にも通じる教訓があるからだろう。史実かどうかは措くとして、その教訓部分に注目したい。

筆者は歴史家ではないので、大胆な仮説をお許しいただきたい。秦は法律に基づいた統治(法家思想)により、人々は何を目標に行動したら良いか、あるいは何をしたら罰せられるか明確に把握しており、よく治まっていた(王・政が戦国時代を終わらせ、初めて天下を統一して始皇帝を名乗った)。ところが趙高が実権を握ると、法律よりも趙高の意向が優先され、人々は何をしていいかわからず、趙高の顔色ばかり伺うことになる。正論を主張する者や実力者は退けられ、阿諛追従する者ばかりで回りを固めることとなる。ついに秦は衰退し、滅亡してしまう。

昨今のコーポレートガバナンスコードでは、経営者報酬のうち、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきと謳われている。平成29年度税制改正では、業績連動給与として損金算入の対象となる指標として、従来の利益指標だけでなく株価指標等も加わった。何に連動するか業績指標を明確にして公表すれば、経営者(業務執行取締役等)は、何を目標に行動したら良いか一目瞭然である。一方、業績連動報酬といいながら、業績指標が外部に非公表で、「事実上経営トップが各取締役等の対象者の報酬を決めている」という話を仕事柄、筆者は小耳に挟むことがある。その様な場合、対象者が必要以上に経営トップの意向を忖度する等の弊害が起きないような仕組みを構築することが求められよう。もちろん、経営トップが対象者の業績を正しく判断し公平に評価すれば何の問題も無いのだが、社外の投資家からは正しい業績評価が行われているか全くと言っていいほどわからない。現代のわが国において業績指標の明確化(有価証券報告書等における公表)と、決定過程の透明性(報酬諮問委員会等による決定)が必要と言われる所以である。

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