1. トップ
  2. レポート・コラム
  3. コラム
  4. コーポレートガバナンスの何を見るか?

コーポレートガバナンスの何を見るか?

‐ガバナンスの現場に立ち会ってみて‐

2017年05月25日

専務理事 道盛 大志郎

このところ、急ピッチで我が国のコーポレートガバナンスの姿が変化を遂げている。1990年代後半から必要性を唱えられていた社外取締役の導入は、その後遅々として進まなかったが、ここ数年で一気に進み、ある程度の規模の会社なら複数いても当然、となりつつある。2015年の商法改正で導入された監査等委員会設置会社への移行もラッシュ状態で、昨年末までに770社を超え、上場会社の2割超を占めるに至っている。

こうした背景には、安倍内閣が成長戦略としてその強化を位置づけたことが大きい。2014年の日本再興戦略をきっかけに、同年には機関投資家の果たすべき責任を示したスチュワードシップ・コードが、翌2015年には、実効的なコーポレートガバナンスの実現を図るためのコーポレートガバナンス・コードが定められた。

それらを見ると良くできていて、ここでは内容には立ち入らないが、基本的な考え方として「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用するものであるとして、「関係者がその趣旨・精神を確認し、互いに共有した上で、各自、自らの活動が、形式的な文言・記載ではなく、その趣旨・精神に照らして真に適切か否かを判断すること」に意義がある、とされている(コーポレートガバナンス・コード)。規範の「履行の態様は、例えば、会社の業種、規模、事業特性、機関設計、会社を取り巻く環境等によって様々に異なり得る」ので、「自らの置かれた状況に応じて工夫すべきもの」ともされている。全く異存がない、立派な考え方だと思う。

しかし、現実の世の中はそのとおりには動いていない。数字や形ばかりが独り歩きしている、と思う。社外取締役の数や比率、女性の占める割合などを皆が気にしているし、監査役会設置会社よりも監査等委員会設置会社、さらには指名委員会等設置会社の方がガバナンスの程度が高いとか、任意の指名委員会や報酬委員会が設置されているかどうか、といった形の面ばかりが関心を呼んでいる。この風潮はいかにもおかしいと思う。

ガバナンスの形が整ったからといって、それだけで成長力が高まるわけではないし、社外取締役が複数いるからといって、不祥事がなくなるわけでもない。毎日の新聞を見ていれば、そうでないことは火を見るより明らかだ。

経営の神様のような、素晴らしい経験と知見を有する社外取締役が存在しているだろうことは否定しないが、世の中の大多数の社外取締役は、スーパーマンでも神様でもない。必ずしも経験のない世界で、迅速性が大事か慎重な検討が先決か、細かいリスク管理は必須なのか不効率を助長するだけなのか、チャンスとリスクを前にいつも悩んでいる存在だ。その点では、経営陣の悩みの一部を観点を変えて、監督という立場で繰り返しているにすぎないし、その業界に関する知見においては、多くの場合経営陣の足元にも及ばないから、その判断が経営陣を上回る保障などどこにもない。

意味があるとすれば、こうしたプロセスを通じて、監督・執行双方の側が、より良い企業経営の実現に向けて高め合っていくことができる、という点ではないだろうか。執行側は、会社の空気に染まっていない、いろんな立場の社外取締役と(厄介な?)議論をするために、自分の立ち位置を再確認して、気が付いたり意識が変わっていくこともあろうし、監督側は、執行側との真摯な議論を通じて、専門外の分野においても、企業の今後への貢献の可能性を高めていくことができるかもしれない。こうした過程を通じて、お互いの信頼感を醸成していくことが重要であるし、その一方では、両者間の緊張感を維持していくことが必要だと思う。

その意味で、コーポレートガバナンスは、打ち出の小槌でも万能薬でもない。諸々の有機的な条件や相互作用が、当該企業の現状に有効に作用するかどうか、といった試行錯誤的なものだと思う。高名な企業法務の弁護士が、監査等委員会設置会社への雪崩を打ったような移行の中で、「監査役会設置会社という選択」に改めて注目し始めている(※1)のも、形優先の思考に警鐘を鳴らすものとして、意味あることだと思う。

このところ世界中で、英米型のグローバリズムや市場万能主義に対する懐疑が高まってきている。コーポレートガバナンスの世界においても、欧米における経営者と従業員の過大な給与格差への懐疑など、いずれこの流れが及んでくるのではないか、と筆者は考えている。既に、我が国でも公益資本主義のような主張も見られる。どのようなコーポレートガバナンスが望ましいのか、株主視点からだけではない、もっと複眼的視点で考えていく時が来るのではないか、と思うのだが、如何だろうか。

ましてや、数字や形を確認しただけでは、何も分かったことにならない。投資家も、アナリストをはじめアドバイスする立場におられる方も、そのことを肝に銘じて頂きたいと思う。

(※1)日経ビジネスオンライン「監査役会設置会社という『選択』‐監査等委員会設置会社が最善の体制なのか?」(牛島 信) 2015年7月21日
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/15/275626/071300004/?rt=nocnt
日経ビジネスオンライン「監査等委員会設置会社をめぐる留意点‐移行に反対したり条件をつけたりする例も」(牛島 信)2016年7月22日
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/skillup/15/275626/071500016/

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

道盛 大志郎

執筆者紹介

専務理事 道盛 大志郎