政府にみられる人手・人材不足
2017年05月02日
新年度になって、日本の大臣らがまた辞めた。一方、新政権が誕生して100日を超えた米国でも、国家安全保障担当の大統領補佐官が就任早々に辞任に追い込まれた。ただ、トランプ政権の場合、そもそもまだ任命されていないポストが多く、辞めるにも辞められない状況である。
例えば、なかなか決まらなかった労働長官はトランプ政権誕生98日目に漸く上院で承認されたが、USTR代表やCEA委員長は空席のままである(正確には、指名されたものの、上院の承認を得られていない状態)。また、政権交代によって入れ替わる各省庁の幹部クラスなどキーとなる政治任用ポスト全体でみると、承認済みは全体の約5%にすぎず、8割以上は指名さえもされていないという(※1)。当然ながら、後任が決まるまで残っている者のインセンティブは乏しいだろうし、現政権の手足となる幹部・専門家が不在では、具体的な政策遂行もままならない。つまり、トランプ大統領が大統領令などを乱発しても、期待通りの成果が上がらない可能性がある。
一方、金融政策を担うFRBの理事も、オバマ前政権時から埋められなかった2名に加えて、4月5日にタルーロ理事が辞任したことから、定員7名のうち3名が空席という現状である。筆者は21世紀になってからしかFedの動きを見ていないが、辛うじて定員の過半数を維持している状態は記憶にない。
さらに、イエレン議長は2018年2月初めに、6月にはフィッシャー副議長がそれぞれのポストの任期切れを迎える。彼らが退任後もFRB理事として留まることは制度上可能だが、あまり現実的な選択肢ではないだろう。従って、トランプ大統領は選挙中の発言通りイエレン議長を再任しないのであれば、短期間で数多くのFRB理事候補者をリストアップして、舵取り役の議長も指名しなければならない。その決定がずれ込むほど出口戦略を含めた金融政策の行方は不透明になり、金融市場が混乱する一因となるだろう。
この点、幸いにも日本銀行のボードメンバーはフルに揃っており、今年7月に退任する予定の審議委員2名の後任についても、政府は既に人事案を国会に提示している。現行の金融政策に対して、しばしば反対票を投じてきたメンバーが一掃されることによって、黒田総裁の政策運営は一段と安定していくとみられる。
その黒田総裁は先日の記者会見(4月27日)で、「人手不足による供給制約が成長にマイナスになるということは、私はマクロ的にはないと思います」と述べた(※2)。黒田総裁が言及したように、労働需給がタイトになれば賃金が上昇し、企業による省力化投資や技術開発が活発になることで、人手不足のマイナス面はカバーされるだろう。だが、米国のケースのように、国家の中枢で様々な政策を担う人材(頭脳)が不足していては回るものも回らず、経済政策の先行きが不透明であれば民間部門は忖度のしようもなく、慎重な経済活動に止めるだろう。やはり人手・人材不足は成長の足かせになるのではないか。
(※1)詳細は、橋本・鳥毛、「トランプ政権100日の進捗状況と評価」(大和総研レポート、2017年4月28日)を参照。
http://www.dir.co.jp/research/report/overseas/usa/20170428_011943.html
(※2)http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2017/kk1704b.pdf
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