見直すべき段階に入ったふるさと納税制度

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2017年04月18日

2017年4月1日、高市早苗総務大臣は自治体間で過熱するふるさと納税(※1)の返礼品競争に歯止めをかけるため、各都道府県知事宛に返礼品の送付等に関する通知を出した(※2)。商品券や耐久財、高額品など制度の趣旨に反する返礼品を送付しないことや、寄附額に対する返礼品の割合を3割以下にすること、自分の自治体の住民に対して返礼品を送付しないことなどが盛り込まれている。

ふるさと納税はわずかな負担額で特産品などの返礼品が得られ、インターネットで簡単に寄附できることから、「ネットショッピング化している」との指摘は少なくない。2013年に約5割だった返礼品を送付する自治体の割合は、2016年5月時点で9割を超え、送付を検討中の自治体を含めれば96%に達している(※3)。返礼品競争の過熱によって制度への疑問が呈されている現状を改める国の対応は当然だろう。

ふるさと納税による寄附金額は、2015年に行われた制度の拡充によって急増している。減税を受けられる寄附額の上限が引き上げられ、寄附する自治体が5つまでなら確定申告不要の「ワンストップ特例」が導入されたからだ。2015年度の寄附金額は1,653億円と前年度比4.3倍に増加し、2016年度はさらに増加したとみられる。ふるさと納税で減税を受けているのは、2015年度でまだ130万人(※4)と就業者の2%にすぎないから、寄附金額が膨張していく余地は大きい。

ふるさと納税は寄附文化の醸成や自治体間の健全な差別化、地域の魅力の発信といった点で評価できる。その半面、寄附金(2,000円を超える部分)のうち所得税での控除分を除く金額に相当する住民税を、住んでいる自治体に納めない(コミュニティに対する会費を十分には支払わない)ことに実質的に等しいという問題がある。ふるさと納税で住民税が減少した自治体は、地方交付税の交付団体であれば減少額の25%分の収入減となり(75%分は地方交付税で補填される)、東京23区などの不交付団体であればまるまる収入減になる。

今回の総務大臣の通知には強制力はなく、各自治体の対応が注目される。今後の動向次第では強制力を伴うルールの導入などを検討する必要があるかもしれない。制度の趣旨に沿ってふるさと納税を発展させ、一部自治体の財政への悪影響を抑えるためには、返礼品に関する抜本的な制度の見直しが必要である。

さらに言えば、ふるさと納税は高所得者ほどその恩恵が大きいという課題もある。例えば、給与所得者である夫と専業主婦と高校生の子供1人の世帯の場合、2,000円の負担で返礼品を手にできる寄附金上限の目安は年収500万円で4万円だが、年収1,000万円なら16万円、年収2,500万円なら82万円である(※5)。年収1億円であれば430万円のふるさと納税が可能で、返戻品の価値がその3割に引き下げられたとしても、129万円分の商品をわずか2,000円で得られる。返礼品付きのふるさと納税については、所得水準とは関係のない上限を設けるなどの検討も求められるのではないか。

(※1)ふるさと納税については、2014年10月14日の本コラム欄でも取り上げた(「特典付きふるさと納税は“ふるさと”のため?」)。
(※2)総務省「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」(2017年4月1日)
(※3)総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」(2016年6月14日)
(※4)納税者数は総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(税額控除の実績等)」(2016年8月2日)の適用者数。
(※5)総務省「2,000円を除く全額が控除できる寄附金額の一覧(目安)

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司