温室効果ガス2050年80%削減に取り組む政府の姿勢

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2017年04月12日

  • 大澤 秀一

現在、政府は「長期低排出発展戦略(世紀中頃の長期的な温室効果ガスの低排出型の発展のための戦略)」の策定に取り組んでいる。

気候変動対策の国際枠組みである「パリ協定」は、締約国に長期低排出発展戦略を2020年までに国連に通報することを招請している。日本も早く対応し、2016年に提出を済ませたドイツ、フランス、米国などと国際社会の低炭素化を先導したいところだ。米政権は地球温暖化懐疑派に交代したが、今のところ取り下げる動きは見られない。

日本の長期低排出発展戦略の論点はいくつもあるが、ここでは、2050年までに温室効果ガスを80%削減するという“長期目標(※1)の捉え方”と、温室効果ガスの排出者が外部不経済(外部費用)を負担する“カーボンプライシング(炭素税、排出量取引)の方向性”、の二つを取り上げて考えてみたい。

環境重視派は削減目標を必達目標にしたいと考えている。安定した気候の下で持続可能な発展を維持するために許容される温室効果ガスの排出量には上限値があると指摘する科学的知見を重視するからだ。このため、排出削減のために必要な資金需要はいわば“約束された市場”であり、カーボンプライシングの導入が潜在需要を喚起するとしている。

他方、経済重視派は削減目標を一つの目安と捉えるのが適切だと唱えている。気候科学に伴う不確実性と限界を考慮すれば、削減目標は幅をもって解釈すべきで、技術進歩や国際協調などの状況変化に応じて対策を変える余地を残すべきと考えるからだ。カーボンプライシングについても、国際的に高い水準にあるエネルギー諸税・価格を考えれば直ちに導入する状況にはなく、産業の国際競争力を高めてイノベーションを後押しすることの方が望ましいという考えだ。

両派の考え方に隔たりはあるが、日本の真面目な国民性と技術ポテンシャルの高さを考えれば、削減目標は必達目標にして、具体的な政策は状況に応じて検討するというのはどうだろうか。削減目標を国際的にコミットすることになるが、削減目標を絶対に達成する覚悟がなければ政策手段の本格検討も始まらないだろう。炭素税については、総需要を抑制する消費税よりも望ましいとする提言(※2)もあり、経済・社会的な諸課題に対応するための税制改革の中で検討することも必要だろう。今後、政府がどのような長期低排出発展戦略をまとめてくるか注目したい。

(※1)2030年度に2013年度比で26%削減する中期目標を達成するための「地球温暖化対策計画」(平成28年5月13日閣議決定)で長期的目標として位置付けられた。
(※2)環境省中央環境審議会地球環境部会長期低炭素ビジョン小委員会(第14回) 資料2「米コロンビア大学教授 ジョセフ・スティグリッツ様 ヒアリング資料」平成29年3月16日。

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