「朝」のベアと「暮」の残業削減に直面する若手社員
2017年03月28日
現在、日本の労働市場では、春闘の賃上げ動向や残業時間の上限規制といった働き方改革の行方に対する関心が非常に高まっている。賃上げと残業時間の削減が実現すれば、労働者にとって良いこと尽くめだ。しかし、現場の声を聞くと、残業時間を一律に削減することに関しては、若手社員を中心に慎重な見方が少なくない。
例えば、若手のうちは多少残業が増えても一生懸命仕事をこなして成果を上げ、自己のスキル向上にも努めたいといった、将来のキャリア形成を見据えた懸念が挙げられる。また、残業代の減少によって手取りが減少してしまうという金銭面での心配や、さらには、企業が目先の人件費カットの口実として残業時間の削減を利用しているだけではないか、というような不信感も一部にくすぶっている。
それでは、実際、ベースアップ(ベア)と残業時間の削減は若手社員の手取りにどの程度影響するのだろうか?ここで、2015年の賃金センサス(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)によって、平均的な若手社員に及ぼす影響度を確認することにしよう。なお以下の計算では、便宜的に、若手社員として、①25歳~29歳の男女計、②フルタイムの一般労働者のうち正社員、を対象としている。
若手社員の基本給に相当する月間の「所定内給与」は24.1万円であり、仮にベアが1%だとすると、月収は2,400円程度増加する。他方、残業代に相当する「所定外給与」を時給換算すると2,000円程度となる。この結果、働き方改革によって残業時間が月に1時間15分削減されるだけで、月収は2,500円程度減少し、ベアの上昇分を含めても収入は減少する。
近年、優秀な人材の確保や定着のために、若手社員の処遇改善を進めている企業が増えており、筆者が入社した頃に比べて基本給は確実に増加している。しかし、以上の単純な計算からうかがえるように、残業代の減少分を含めると、当時と比べて収入があまり変わらない若手社員も少なくなさそうだ。その結果、彼らは節約志向を緩めず、余暇が増えても消費が伸びない可能性が高い。
さらに、企業が目先のベアを餌に残業削減という事実を覆い隠す、いわば「朝三暮四」のような姿勢を強めれば、それに愛想を尽かした優秀な若手社員が転職し、長期的に企業の競争力が低下する事態も生じうるだろう。今後は、若手社員が生産性の向上を通じて残業代を削減したのであれば、それをベア率のさらなる引き上げなどを通じて、適切に還元することも重要な検討課題となる。
今年は、労働基準法が1947年4月7日に制定されてから70年という大きな節目にあたる。企業は健全な利益を確保しつつ、労働者の手取りと余暇を増加させるという二兎を追う年となることに期待したい。
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