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観光消費のN字カーブ

2017年03月09日

調査本部 主席研究員 兼 社会連携担当 岡野 武志

2016年の訪日外国人旅行者数は、前年比21.8%増となり、2千4百万人余りを記録した(※1)。一方、訪日旅行の消費額は、前年比7.8%増の約3兆7千5百億円にとどまり、四半期ベースでは増加幅が急速に縮小している(図表1)(※2)。訪日旅行者1人当たりの旅行支出は、ピーク時の18.7万円(15年3Q)から14.7万円(16年4Q)に減少しているため、モノの消費だけでなく、コト(体験・サービス等)への消費を拡大しようとする動きも広がっている。しかし、質の高い体験やサービスを提供するためには、受入環境の整備や宿泊施設の拡充、人材の確保・育成などに、これまで以上の対応を求められる地域も少なくないであろう。観光立国実現への取り組みは、消費規模が大きい国内旅行を地域経済の活性化に結び付け、地域の観光基盤を充実させていく時期に差し掛かってきたように思える。

旅行消費額の推移

訪日旅行に比べると、国内旅行の規模は格段に大きい。16年の国内旅行の延べ旅行者数は6億4千万人近くに上り、旅行消費額は20兆円を超えている(※3)。しかし、国内旅行では短い期間の旅行が多く、滞在型と呼べるような旅行は限られている。16年の延べ旅行者の半数近くは日帰り旅行者であり、旅行消費額も日帰りから2泊までの旅行が全体の7割以上を占めている(図表2)。これまでの観光地域は、長く滞在して楽しみたくなるようなコトを、十分に提供できていなかった可能性もある。四半期ごとの消費額をみると(図表1)、日帰り旅行では、ゴールデンウィークを含む2Qに消費額が増えるのに対し、宿泊旅行の消費額は、夏休み時期の3Qに増加する点に特徴がある。旅行ができる期間や時期が限られる人が多いとすれば、社会の仕組みの中に、旅行を制約する要因があることも考えられる。

旅行期間別旅行消費額

旅行消費額を世代別にみると、40代の消費額が最も多く、両側が次第に少なくなっている(図表3)。しかし、観光・レクリエーションを目的とする消費額(観光消費)の比率をグラフにすると、中央部分が大きく下がった「N」字型のカーブになる。30代・40代では出張や業務などを目的とする旅行も多く、観光消費は旅行消費額の半分ほどにすぎない。この背景には、働き盛り世代は休みが取りにくい、仕事を持つ両親が休みの日程を合わせにくい、親が休みを取れても子が学校や塾を休めない、旅行に支出できる金額が限られているなど、さまざまな要因があり得るであろう。家族そろっての旅行が低調であるとすれば、9歳以下や10代の消費額が相対的に少ないこともうなずける。国内旅行を各地に広げる上では、観光消費のN字カーブの底を押し上げていくことは、重要な施策の一つといえるであろう。

年代別国内旅行消費額

フレックスタイム制度や在宅勤務制度、週休3日制などを導入する企業が目立ちはじめ、2月からは「プレミアムフライデー」も開始されている。働く時間帯や働く場所の選択肢が広がり、仕事以外にも自由に使える時間が増えれば、旅行消費の増加につながることも期待できる。しかし、これまでの仕組みの延長線上にある変化だけでは、短い期間の旅行を促す程度の効果にとどまる可能性もある。旅行を制約してきた要因を取り除き、観光消費のN字カーブを本格的に底上げするためには、これまでの社会の仕組みを大きく見直す必要があるのかもしれない。情報通信機能や人工知能の発達、機械化・自動化の進展などが、これからの社会を大きく変えていくとすれば、人々の暮らしを豊かにするための改革を進めていく時期にも差し掛かってきたように思える。

(※1)「統計データ(訪日外国人・出国日本人)」日本政府観光局(JNTO)
(※2)「訪日外国人消費動向調査」観光庁
(※3)「旅行・観光消費動向調査」観光庁
注)公表されている平成28年年間値(速報)では、平成28年の各四半期速報値が合計されているのに対し、本稿では第1~第3四半期の確報値の合計に第4四半期の速報値を加えて集計している。

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調査本部
主席研究員 兼 社会連携担当 岡野 武志