タイ:早すぎた高齢化
2017年02月20日
昨年10月、タイでは現役君主では在位期間が70年と世界最長であったプミポン国王が崩御した。そして、プミポン国王の後継者として昨年12月に国王に即位したのは、長男のワチラロンコン皇太子で御年64歳といささか高齢である。新国王が高齢なだけではなく、実はタイでは高齢化が進行している。
ASEAN主要国と比較してみるとタイは高齢化において一歩先を行っていることが分かる(図表1)。国連の定義によると、65歳以上人口が総人口に占める割合である高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」へと突入すると言われているが、タイの高齢化率は2002年にその値を超えている。また、高齢化率が14%を超えると「高齢社会」と定義されるが、世界銀行の推計によると2022年に高齢社会に突入すると予測され、高齢化率が7%から14%へ要した期間である倍化年数は20年とかなり速いペースで進んでいる。
一方、少子化も進んでいる。2015年の合計特殊出生率は1.5と他のASEAN主要国と比べてもかなり低い値である。世界銀行の推計では2050年までの間、合計特殊出生率は1.5~1.6の間で推移していくと予測されていて、今後とも少子化は進行していく傾向にあると考えられる。
このようにタイは先進国と同様に少子高齢化と向き合わなければならない。しかし、先進国より状況は深刻である。各国の一人当たり名目GDPと高齢化についての関係を見てみると、他の先進国と比べても、経済発展の早い段階で高齢化が始まったことが分かる(図表2)。つまり、“富む前に老いる”状況になってしまったのである。
そのため、高齢者向けの年金といった社会保障政策や子育て支援策といった一種の分配政策が他のASEAN主要国よりも必要とされているが、その財源が不十分である。そのため、研究開発(R&D)の推進や積極的な設備投資、高度人材の育成のための高等教育制度の拡充、より付加価値の高い部門への人材の移行など、いわゆる生産性の向上が他のASEAN主要国よりも強く求められている。
タイの抱えている経済問題はなかなか深刻なものである。しかも、所得再分配が有効に機能しないとすれば、今後起こり得る格差拡大への対処も困難となろう。経済格差の拡大は、国民の不満を高め、社会不安を誘発する恐れもある。さらに、新国王が即位し、国王の果たす役割やあり方も今までとは異なってくる可能性もある。課題が山積みである中、政府には目先の選挙のことだけを考えた政策ではなく、中長期的視野に立った政策運営を期待したい。


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