米国訪問での経験
2017年01月24日
2016年12月、外務省が推進する対日理解促進交流プログラム(カケハシ・プロジェクト)に参加する機会を得た。「カケハシ・プロジェクト」は北米地域を対象に、対日理解の促進や知日派の発掘、対外発信の強化、わが国の外交基盤の強化を目的とした事業である。今回は経済・安全保障・エネルギー分野の若手研究者18名が米国ワシントンD.C.にあるシンクタンク等を訪問した。
経済分野に関しては、日本側から経済の現状や中長期の課題、金融政策などについて説明を行った。これに対して米国側からは、「予想インフレ率を引き上げるにはどうすればよいか」「金融政策と財政政策の有効性を独立的に議論するのではなく、組み合わせる発想が必要」「労働力の減少や高齢化の影響が懸念される」といった質問や意見が聞かれた。
中でも賃金については複数の研究者から質問を受けた。リーマン・ショック以降、日本銀行は累次の金融緩和策を導入・強化し、マネタリーベースはGDP比で80%程度と米国の約4倍の水準に達した。しかしながら消費者物価は本格的に上昇する兆しがいまだに見られず、デフレが単純な貨幣的現象でないことが鮮明になっている。米国研究者の関心が追加の金融緩和策ではなく賃金に集まっているのは、デフレが構造的な問題であり、規制・制度改革や財政政策と併せて対応すべきと考えているためだろう。
トランプ氏が大統領選で勝利した直後の訪問とあって、新政権の政策運営に関する議論も行われた。政治経験のない実業家が大統領になったのは史上初であり、歴代政権の延長線上にない視点から新政権を捉える必要があるとの指摘があった。企業や他国に対するトランプ氏の最近の発言は、こうした見方を裏付けているようだ。また、日本の成長戦略の重要施策であるTPPについては、凍結状態になるとの意見が多かったが、他方で米国が日米FTAを模索する可能性も指摘された。
新政権の政策は現時点で不透明なところが多いが、やはり懸念されるのは通商スタンスである。トランプ氏の最近の発言を受け、米国では国内生産への回帰や雇用創出を約束する企業が自動車メーカーを中心に増えている。だが、マクロから見た場合、こうした企業行動はかえって景気や雇用を悪化させるだろう。政府が関税や規制で無理に生産システムを歪めれば、企業の生産効率や競争力が低下して収益が悪化し、結果として雇用が減退するからだ。また、賃金も切り下がり、物価が上昇したり消費者の選択肢が狭まったりすることも考えられる。2017年は波乱含みの米国の政策運営に特に注意を払いたい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月20日
日本経済見通し:2021年1月
1-3月期は小幅な景気悪化を見込むも「二番底」リスクを排除できず
-
2021年01月20日
日本経済中期予測(2021年1月)解説資料
~コロナ禍で変容する世界経済と加速するグリーン化の取組~
-
2021年01月20日
日本経済中期予測(2021年1月)
コロナ禍で変容する世界経済と加速するグリーン化の取組
-
2021年01月20日
中国:V字回復下の中国経済の注目点
感染第2波は回避へ。注目される接触型消費の完全復活の成否
-
2021年01月21日
社外取締役に期待される役割の開示~改正会社法施行規則
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?
-
2018年10月09日
今年から、夫婦とも正社員でも配偶者特別控除の対象になるかも?
配偶者特別控除の変質