人生はゲームか?

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2017年01月05日

  • 秋屋 知則

子どもの頃、外の遊び場ばかりでなく、自分の家や友達の家でもよく遊んだ。家の中で集まって遊んだのが、当時、流行っていたのが「人生ゲーム」(The Game of Life)だった。要は、西洋版のすごろくだが、スタートからあがりまでの道程を人生に見立てているため、止まるマスで起きるイベントは結構、リアルで金融・経済的な内容が多かった。

まず、はじめに自分の職業がルーレットまかせで決まる。職業によって給料には違いがあり、一生の間では、こんな格差になるのかと田舎の少年の心に鮮烈に刻まれた。

次に各プレイヤーは結婚のマスで例外なく止まる。全員止まることに違和感がなかったのは時代の反映かもしれない。1970年代前半の日本男性30~34歳の未婚率は10~15%、35~39歳では5%内外だったので、統計的にも頷ける(平成27年国勢調査によれば30~34歳男性のうち約半数が未婚で50~54歳で5人に1人が未婚)。

ゲームを続けるうち、兄や年長の遊び仲間から“満期がくるとお金がもらえるから、生命保険には絶対入っておけ。”とか、“株は買っても買わなくてもいいけど、後からだと値上がりするから早めに買っておいた方がいいぞ。”とか、本物の業界関係者さながらの助言が小学生の間で行き交っていた。

ところで、その頃、ザ・ドリフターズの「8時だョ!全員集合」というTV番組が非常に高い視聴率をあげていたが、多くの親たちは内容が低俗だから子どもに見せたくないと考えていた。同様に子どもの間で流行する様々なものの中で不適切と思われるものに対してPTAを代表とする大人たちは制限や規制強化をしようと動いていた。

しかし、筆者の経験上、小学生が「人生ゲーム」で遊ぶことに目くじらを立てられたことはない。それどころか、年末年始などでは親も参加して家族でも遊んでいた。誰がプレイヤーの中で1番金持ちになったか競う、あたかもそれが人生の目標であるかのごとく、お金をやりとりするゲームにもかかわらずだ。

それはゲーム内の通貨が円ではなくドルであったことが幸いしたのかもしれない(白い「10万ドル紙幣」は何とも魅惑的だった)。しかし、今でも遊びながら学ぶ、金融教育的にはかなり本質的な内容を含んでいたと信じている。

例えば、あらかじめ保険に入っていると、何かトラブルに巻き込まれていたとき、治療費や修理代などの支払を代わりに済ませてくれると理解できたし、株式を保有していれば、収益のチャンスもあるが、相場暴落のマスに止まれば、大きな損失も被ることがある、本物の株券など全く目にしたこともなかったが、ゲームを通じて知ることができた。

このところ、証券投資に関する制度は充実されてきているが、利用者と金融に携わる企業との間のギャップがなかなか埋められない。子どもの頃、ゲームなら、あんなに何度も遊んで親しんだのに。「モノポリー」や「いただきストリート」あるいは「桃太郎電鉄」など、時代や世代によって熱中して遊んだゲームはいろいろとあると思うが、じっくりとリアルに展開していく方法はないものだろうか。

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