上場会社のフェア・ディスクロージャー・ルール対応を巡る対話

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2017年01月04日

研究者Aと上場会社勤務Bとの対話

A 年末にフェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース報告(以下、TF報告)(※1)が出た。

B おかげで上層部から「対策を考えておけ」って言われて難儀している。

A それほど気に病む話でもないだろう。フェア・ディスクロージャー・ルール(以下、FDルール)が何かくらいは知っているだろう?

B 未公表の重要な情報を特定の者に選択的に提供した場合は、その情報を開示・公表しなければならない、というルールだろう?ただ、重要な情報って何だ?インサイダー取引規制と同じと考えてよいのか?

A TF報告は、インサイダー取引規制の対象情報をベースとしつつ、それよりは拡大する方針を示している。

B 具体的には、どう拡大されるのだ?

A 例えば、「機関決定に至っていない情報や軽微基準の範囲を超えない情報であっても、投資者の投資判断に影響を及ぼす重要な情報」(※2)が念頭にあるようだ。

B 軽微基準が使えないのか。

A おいおい、形式基準に頼るのは感心しないぞ。今のインサイダー取引規制にだってバスケット条項がある。どういった情報が投資者の投資判断に影響を及ぼすのか、上場会社の側も意識を持つべきだろう。

B それはそうだが…。投資者といえば、FDルールの対象となる伝達相手に、機関投資家やアナリストが含まれるのはわかるが、例えば、取引先企業などは含まれるのか?

A TF報告では、①「証券会社、投資運用業者、投資顧問業者、投資法人、信用格付業者などの有価証券に係る売買や財務内容等の分析結果を第三者へ提供することを業として行う者、その役員や従業員」、②「発行者から得られる情報に基づいて発行者の有価証券を売買することが想定される者」が対象とされている(※3)

①は市場関係者、②は株主等が念頭にある。取引先の場合、株式などを持っていない限り該当しないだろう。

仮に該当しても、その情報について「守秘義務」と「投資判断に利用しない義務」を負っていれば除外される(※4)

B それを聞いて安心した。それなら守秘義務等を負わない相手には一切何も言わないことにすればよいのではないか?

A FDルールを形だけ守るならね。だけどコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)はどうするつもりだ?

B CGコードが何か関係するのか?

A 君の勤務先もCGコードの基本原則5はコンプライしているだろう。

B 「株主との間で建設的な対話を行うべきである」。株主・投資者はFDルールの対象で、通常、守秘義務は負わない。

A 「FDルールのため、対話しません」なんていうエクスプレインは勘弁してくれ。

B FDルールと対話をどう両立させるかが問題か。

A そのカギは基本原則3にあると思う。

B 「適切な情報開示と透明性の確保」。なるほど。

A もちろん、守秘義務やいわゆるモザイク情報(※5)の問題などは残るが、投資者一般にとって投資判断上重要な情報が適時、適切に開示されていれば、FDルールと対話の両立にもそれほど悩むことはないはずだ。

B 理論上はね。しかし、実務の現場は難しいのだよ。どこか、ガイドラインでも作ってくれないかな。

A 君はガイドラインというものを勘違いしていないか?

ガイドラインはあくまでも方向性を示すものだ。それさえ守っていれば十分というものではない。乱暴な言い方だが、真面目に自分の頭で考える人にとっては重要なヒントになり得る。しかし、一夜漬けの丸暗記で乗り切ろうという人の「虎の巻」にはなり得ない。

B 手厳しいな。でも、今の話で少し見えてきた。適時、適切な情報開示、株主・投資者との積極的な対話、しっかりとした情報管理、こうした取組みがきちんと行われているかということだな。

(※1)金融審議会 市場ワーキング・グループ フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース報告 ~投資家への公平・適時な情報開示の確保のために~」(平成28年12月7日)(TF報告)
(※2)TF報告p.2
(※3)TF報告p.3
(※4)TF報告p.4
(※5)「他の情報と組み合わさることによって投資判断に影響を及ぼし得るものの、その情報のみでは、直ちに投資判断に影響を及ぼすとはいえない情報」(TF報告p.3)のこと

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳