新春を迎えて

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2017年01月01日

  • 名誉理事 武藤 敏郎

2016年を振り返ると、新春から株価の暴落に見舞われ株式市場は大荒れの出だしとなった。日本銀行は1月末、歴史的なマイナス金利政策に踏み切った。景気回復の足取りは弱く、政府はデフレ脱却がまだ道半ばであるという考えのもと、年央にかけて補正予算編成の方針を打ち出す一方、2017年4月に予定されていた消費税の引き上げを2年半延期することを決めた。9月になると日本銀行は、長短金利操作付き量的・質的金融緩和政策として、イールドカーブ・コントロールとオーバーシュート型コミットメントを打ち出した。2%の物価目標の達成時期は何度も延期され、現時点では2018年度中とされている。2016年は財政金融政策の行き詰まりが明らかになった年と言えるだろう。

アメリカの大統領選挙も日本に大きな影響を与えた。当初は泡沫候補のように見られていたトランプ氏が大統領選挙に勝利すると、一瞬株価は下落したが間もなく上昇に転じた。その後も株高・ドル高が続いており、日本でも円安・株高となっている。長い間金融・財政政策を総動員してきたがなかなか上向かなかった日本経済は、トランプ氏勝利によって元気を取り戻しつつある。しかし、トランプ・ショックの持続可能性について市場は確信が持てないでいるように見受けられる。

さて、今年はどのような年になるのだろうか。大和総研が2016年12月に発表した経済見通しによれば、2016年度の実質経済成長率は1.3%、2017年度は0.9%と見込んでいる。民間消費支出や民間企業設備投資は底堅く推移し、輸出も世界経済の持ち直しを背景に成長率の底上げに貢献すると見込んでいる。日本経済は当面、1%前後の緩やかな成長軌道に回帰していくだろうというのが、我々の見通しである。

我が国経済の緊迫したリスク要因は当面国内にはないが、海外経済のリスク要因には留意する必要がある。先ずトランプ新大統領の経済・外交政策が挙げられる。1月20日の就任演説や一般教書、予算教書などを見てみないとはっきりしたことは言えないが、トランプ氏は、TPPからのアメリカの離脱を公言するとともに、中国を為替操作国に指定すると示唆しており、これが世界経済に悪影響を与えることが懸念されている。ヨーロッパでは、イギリスのEUからの離脱問題によって、経済が停滞する恐れがある。また、中国は、2016年には6.5%を超える実質経済成長を実現できそうだが、2017年は6.5%を下回る可能性がある。過剰設備や過剰債務問題を抱えている中国経済は、今後緩やかな減速過程に入るとみられている。

今年、アメリカ、ヨーロッパ、中国の3極においてそれぞれに抱えているリスクが顕在化するかどうかは分からないが、中期的な問題として念頭に置いておく必要があるだろう。

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