家計調査、調査対象者の負担は如何ほど?

RSS

2016年09月20日

  • 山口 茜

日本には様々な統計が存在するが、代表的な統計の一つに、「家計調査」がある。

1946年に開始された(※1)家計調査は、過去のデータが豊富にあり、調査項目も細かく設定されているため、様々な分析に使える。また、GDPの6割を占める個人消費の推計や、足下の消費動向の判断にも用いられる。さらに身近な例で言うと、「〇〇消費額日本一は××県」などというデータも、家計調査が基になっていることが多い。

このように家計調査は様々なところで活用されているが、調査内容の細かさ故、調査対象者の負担が重いといった問題も指摘されている。

偶然、最近筆者の実家が家計調査の対象世帯に選ばれていたため、調査対象者の様子を聞くことができた。調査対象者に選ばれた世帯は、6か月間毎日、細かな家計簿を手書きで記入する。さらに、最初の1か月間は支給された電子はかりで、買ってきた野菜等の食品の重さを毎回量らなくてはならない(2人以上世帯のみ)。

調査の様子を聞き、なかなか大変そうだとは思いながらも、筆者の実家の「夫婦2人暮らし、自営業、地方在住」のケースは、比較的負担が軽いように思えた。調査対象者の負担が重いと言われる家計調査は、重い中にも負担の軽重に世帯差がかなりあるのではないか。

まず、世帯人数による違いについてだが、家計調査は世帯ごとに行われているので、世帯人数が多いほど負担は大きいと考えられる。子供がいる場合は細かな出費も多いだろうから、その分、記入の負担は大きくなるだろう。

次に、自営業か否かによる違いについて。自営業の場合は家計簿に記載するのは支出のみで、収入を記入する必要がない(※2)。しかし、勤労者等の世帯では、毎月の収入の詳細や、保険料等の控除についても項目から金額まで全て手書きで記入する必要がある。共働きの場合、収入の記入量は倍になる。このため、勤労者等の世帯(特に共働き世帯)の負担は比較的大きいと言えるだろう。また、共働きの場合は、そもそも家計簿を記入する時間を見つけることが難しいといった問題も考えられる。

最後に、電子マネーを使う頻度による違いについて。筆者の実家は地方にあり、駅の改札が電子マネーに対応したのはほんの1か月ほど前のことであるし、そもそも電車に乗らないため、電子マネーとは縁遠い。しかし、都市に多いと思われる電子マネーを頻繁に使う世帯が調査対象者に選ばれた場合、その記入はなかなかの曲者だ。電子マネーにいつ、いくらチャージしたかとともに、電車に乗るたびに電車賃を電子マネーでいくら支払ったか、コンビニ等で電子マネー支払いした時は何をいつ電子マネーで買ったかを記入する必要がある。毎日利用履歴をチェックしなくては分からなくなってしまいそうだ。それを家族全員分するとなると、負担は大きいように思う。

世の中が便利になり、様々な購入手段や決済手段が選べるようになった。人々の消費が複雑化することで、家計調査の記入方法も複雑化し、調査対象者の負担も大きくなってしまった側面がある。調査対象者の負担が大きいことはもちろん国も把握しており、ICT活用等の検討が進められている(※3)。ICT活用で実際にどのくらい負担が減るのか、まずは上記で述べたような比較的負担の重い世帯で試験的に導入してみるのも一つの手かもしれない。

(※1)1946年に開始されたのは、家計調査の前身である「消費者価格調査」。その後、「消費実態調査」(1951年に改称)を経て、現在の「家計調査」という名称になったのは1953年。
(※2)個人商店などの場合、月々の収入を営業上の収入と家計収入に切り離してとらえることが難しいため、自営業世帯では収入を家計簿へ記載することを求められない。ただし、年間収入の調査は行っている。(参考:総務省「家計調査のしくみと見方」)
(※3)詳しくは、総務省「家計調査の改善に関するタスクフォース」等を参照。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。