ポピュリズムVS株式市場
2016年07月07日
Brexit(英国のEU離脱)を確定的なものとした英国の国民投票結果は、単に英国だけの問題にとどまらないとの連想も広がり、市場に衝撃を与えた。
国民投票の実施を持ち出したのは、他でもない、今回辞任を表明したキャメロン首相本人であり、その政治的な戦略が予想外の結果を生んだと言える。国民投票という形で国民の意思を問うことがはらむ危険な一面を、今回、世界の多くの人が痛感したのではないか。
今回もそうだが、世界の多くの国の政治の舞台で、いわゆる「ポピュリズム」(大衆主義)が台頭しつつあることは、疑いのない事実であろう。ネット社会の広がりにより、それまで表に出て来にくかった「声」が大きな力を持つようになり、政治体制をも左右するようになった。グローバリゼーションや金融資本主義の発展の陰で蓄積されてきたひずみが、様々なところで表面化しているようにも見える。
この流れは、簡単に収束するとは思えない。このまま進んだ場合、どのような世界が待ち受けているのか。ポピュリズムの台頭が、資本主義体制のあり方を問うものとなれば、とくに資本主義の申し子とも言える株式市場は少なからず影響を被ることとなろう。例えば、富裕層に対する課税が過度に行われるようになった場合、株式市場に対する投資資金供給を阻害する可能性が考えられる。一見、本質的な企業価値とは関係ないようだが、企業部門の健全な成長は活発な取引が行われる市場の発展と表裏一体と言っても過言ではない。
また、ポピュリズムの台頭は政治的な不安定化をもたらす可能性もあり、これも市場にとって好ましいことではない。企業活動は安定的な政治体制の中で活発化するものであり、その逆は、投資活動の停滞にもつながりかねないからだ。
話は変わるが、株式市場と一般市民は、決して双極の存在ではない。例えば、発展段階の市場では、一般市民が中心的な参加者であることも多い。最近までの中国市場がそうであったし、日本も明治期は同じようなものだった。しかし、そこは、投機家が入り乱れたボラティリティの激しい市場になりがちとなる。中途半端な知識や情報に基づいた取引が横行しやすいためだ。効率的な価格形成が行われる「投資市場」になるには、十分な知識・情報を持ち、長期的な視点から投資を行う機関投資家の一定の存在感が重要になってくる。
このようなことを考えると、国民投票と通じるものを感じてしまう。十分な考えを持たずに雰囲気で投票を行ってしまうケースも多い直接民主制よりも、一般市民の意見を集約して俯瞰した視点から議論を行う間接民主制のほうが、安定感が高まるということだろう。
いずれにせよ、政治も市場も、参加者一人一人が十分な情報を得て、広い視野に基づいて行動を起こすことが何より大切だと、つくづく思う。
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調査本部
常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰
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