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常若(とこわか)=伊勢神宮・式年遷宮にみる和のサステナビリティ

2016年04月06日

河口 真理子

温暖化の影響か、早くも桜が開花し始めた3月25日に伊勢神宮を取材する機会を持った。

伊勢神宮といえば2013年に執り行われた式年遷宮を覚えている方も少なくないだろう。式年遷宮とは天武天皇が定め持統天皇の御代(西暦690年)に始まった国家的儀式。原則20年に一度新しい神殿(殿舎造替)に新しい御装束と神宝を整えて、御神体をお遷しする(遷宮)儀式のことだ。応仁の乱の時代の約130年間を除いて現代(2013年)まで1300年以上の長きにわたり原則20年ごとに執り行われている。

この式年遷宮は膨大な資材と労力を要する。たとえば神殿造営のため檜2千本、萱は2万3千束(一束25㌔)が必要となる。中でも正殿の柱となる檜は樹齢300年の大木を使う。また一緒に収める絹織物や麻織物などの御装束は525種1,085点、金や銅や宝石類を精巧に細工した装飾武具や楽器、調度品などの神宝は19種199点にのぼる。

筆者の研究テーマの中心は欧米発といわれるCSRやESG投資だが、そこになぜ伊勢神宮の式年遷宮が関係あるのか疑問に思われるかもしれない。国連では「地球は、経済社会および環境の面で大きな課題に直面している」という認識の下、2015年9月に「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択した。2030年に向けて地球規模の優先課題を明らかにし、人類共通の行動計画として環境や人権安全衛生等に関して17の目標が設定された。これらは西洋的な合理主義を前提としたものだが、それだけでは不十分で、ここには和の智慧が不可欠なのではないか。特に1300年以上も継続してきた式年遷宮にはヒントがあるのではないか。そういう問題意識で取材に臨んだ。

取材で開口一番訊いたのは「なぜ1300年も継続できたのか?」。この素朴な質問には複雑な答えを期待していたのだが、神宮司庁の答えはシンプルに「継続することが目的だから」だった。貴族社会から武家社会そして近代へと時代が変化するなかでも、神様をお迎えするという古来の儀式を変えずに自分の世代でも執り行い、次世代につなげることこそがミッションで、その本質を守るためには、資金調達など時代にあったやり方の工夫を重ねてきた、ということだ。

それはある意味意外な答えだった。例えば現在の資本主義社会では企業も国家も暗黙裡に「成長」しなければならないとされる。単に継続だけなら「停滞」と見なされかねない。「成長」を目指して結果として「継続」することはあっても、「継続」が目的の組織とは評価されるのか。しかし逆に成長が目的となると、その時代の人の視野の狭い知恵で、無理な拡大を追求し、その結果利益や国益のために環境問題や人権問題戦争を引き起こし結果として企業なら倒産、国家は他国に征服されるかもしれない。世界の人口が72億人を超える現在、企業や国家という組織は「成長」から「継続」にその目的を変えるべき時なのかもしれないと感じた。

また式年遷宮は、神様は常に新しい神殿でお迎えしなければならないという発想から常に新しく造営するのだが、これは「常若(とこわか)」という考え方を表すとされる。古くなったものを作り替えて常に若々しくして永遠を保つという発想だ。西洋的発想ではコンクリートや石などで頑健なものを作ることがサステナビリティになるが、式年遷宮は逆に朽ちやすく簡単に壊すことができる木で作る。しかし定期的に作り替えることで永遠の若さが保てる。

この壊れやすいものは壊して、また新しくすれば永遠に持続する。こういう逆の視点からの和のサステナビリティが人類を救うカギになるかもしれない。こうした日本に眠る先人の智慧を人類共通の智慧として世界に発信すべきではないか感じて桜が咲き始めた神宮を後にした。

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