ヘリコプターマネーの有効性

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2016年02月26日

  • 小林 卓典

自然利子率(※1)がマイナスになっているとすれば、中央銀行が名目金利をマイナスに引き下げる金融緩和策は妥当性を持つ。しかし、2016年1月末の日銀のマイナス金利の導入決定は、海外経済の悪化に遭遇したこともあって、円安、株高には結びつかず、評価は思わしくないようだ。これは日銀にとってというよりも、日本経済にとっての不運だ。

ゼロ金利、フォワード・ガイダンス、量的緩和そしてマイナス金利と、これまで日銀は様々な政策を打ち出してきたが、金融政策のみでは需要創出に限度があるとの印象は否めない。依然として財政政策にも重要な役割があるはずだが、巨額の政府債務を抱える日本の財政に、その余裕はないとするのが常識とされている。

しかし、景気回復は永続しないものであり、不況はいつか必ず訪れる。その時、日本はどうすべきか。日銀がマイナス金利幅を拡大し国債購入を続けることが考えられるが、これは現在の政策の延長にすぎない。

最も強力な需要創出手段は、日銀による国債引き受けで減税や公共投資などの財政政策を行うことだが、中央銀行による財政ファイナンスは禁じ手であり、主要国ではタブーとされている。いったんこの政策に手を染めると、行きつく先はハイパー・インフレーションというのが通説になっているからだが、本当にそうだろうか。

英国の元金融サービス機構長官のターナー氏は、以前から、量的緩和など金融政策の限界を指摘し、政府が無利子の永久国債を発行して中央銀行が引き受ける、財政ファイナンスの有効性を主張している。こうしたヘリコプターマネーと呼ばれる政策は、当然、平時の政策として行うことは禁じられるべきであり、深刻な不況に陥った場合にのみ認められる、あくまでも一時的な政策手段である。そのためのルール、システム、組織作りが重要だという。ターナー氏は2015年11月の論文の中で、「中央銀行による財政ファイナンスが必要となる国が少なくとも一つある。それは日本であり、5年以内に財政ファイナンスが不可避になるだろう」と述べている(※2)

それに同意できるかどうかはともかく、今の世界経済には多くのダウンサイドリスクが存在する。世界経済の動向次第で日本が景気後退に陥る可能性は容易に高まるだろう。再び景気後退に直面したとき、日本はどのような政策をとるべきだろうか。

(※1)GDPギャップがちょうどゼロとなる実質利子率のこと。
(※2)Turner, Adair (2015),“The Case for Monetary Finance - An Essentially Political Issue

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