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大学教育の質が高まらない理由

2016年01月12日

経済調査部 主任研究員 溝端 幹雄

子どもを持つ親であれば、将来どのような人材が社会で求められるのか、そのためには今からどのような教育を行うべきなのか、気になるところだろう。これまでになく日本の教育環境は大きく変化しようとしている。そもそも教育は学校だけでなく、家庭などが果たす役割も極めて重要ではあるが、一方で大学教育の質が中々改善しないという議論を耳にすると、将来も日本の大学に通わせて大丈夫なのかという疑問を持つ人がいるかもしれない。

そもそも大学教育のあり方は、就職後の企業の雇用形態に強く依存している。日本の場合、これまで企業では職務を限定した採用方法は行われず、あらゆる職務をこなせる能力があるかどうかといった職能重視の採用が行われてきた。日本がキャッチアップの過程にあるときには、海外の最先端の技術を模倣したり機械の操作方法を容易に習得できたりする能力が最も重要であったからと言える。その結果、職務・勤務時間・勤務地が無限定の日本型の雇用制度が形成されてきた。そうした職能重視の雇用形態においては、地頭の良さが基準値を超えていることが重要であり、大学で何を勉強してきたのかは基本的には問われなかったと言える。地頭の良さは大学入試の難易度で測られるので、入学した大学の名前が分かれば、企業による採用条件はほぼクリアしたことになる。

一方、既にキャッチアップが終わり、模倣すべき技術がなくなって自分たちで新しい技術を生み出す必要のある現代では、地頭の良さだけではなく、何を生み出せるのかが見える人材への需要が高まっており、近年は大学側もそうした変化を踏まえた様々な取り組みを行っている。新たな発想の基となりうる学問はその重要な要素の一つになると考えられるので、今後は学問に対して真摯な取り組みをしてきたかどうかで大学の評価が分かれるだろう。また、新しい見方を提供できる異分野の人材を求めて、これまで採用の対象とならなかった専攻分野(美術・芸術系など)からの採用も増えるかもしれない。いずれにしても、何を学んできたのかが重要な要素となる一方、大学の名前だけで採用する時代は終わりつつある。

これまで大学教育と企業の雇用形態には上で述べたような相互にとってメリットのある関係(戦略的補完性)が強く働いていた。足元、企業側で少しずつ求める人材が変わりつつある中、大学側ではそうした変化に体制がまだ追いついておらず、それゆえに大学教育は大きな過渡期にあると思われる。ただし、元々両者には強い補完関係があるので、全体として大学の教育の質が変わっていないということは、大半の企業側の採用基準も大きくは変わっていないことの裏返しでもある。こうした戦略的補完性は人々が何を最適な行動だと思うのかという期待に依存して決まる性質があるので、何か大きなショックが起こって多くの人々の期待が変化しないと、古い状態から新しい状態へは移行しないだろう。

昨年、政府がいわゆる文系・教員養成系の学部・大学院の大幅縮小・廃止を国立大学へ通知したことが大きな話題となったが、特に大学側に大きなショックとして働いたように思われる。もちろん、イノベーションには教育だけでなく、企業を含む社会全体のあり方も問われていると考えられるが、これを契機に人々の期待が変わり、新しい時代に即した大学と企業との望ましい関係が早急に築かれるべきだろう。

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