社長を選ぶのは誰か?

コーポレートガバナンス・コード雑感Ⅳ

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2015年10月08日

研究者Aと上場会社勤務Bとの対話

A 社長を選ぶのは誰か?

B 何だいきなり?

A 元経営者の回顧録等で「社長から『次期社長は君だ』といわれた」、「次期社長として〇〇君を抜擢し、道を譲ることにした」などといった記述をよく見かける。

こうした話を読むたびに、強い違和感を覚える。

B それは君が「英米型ガバナンスモデル」に毒されているからだろう。

A いやいや、「日本型ガバナンスモデル」の典型である監査役会設置会社だって同じだ。

会社法上、代表取締役を選ぶのは取締役会の権限だ(※1)。その取締役会を構成する取締役を選ぶのは株主総会だ(※2)

いわゆる「間接民主主義」に近い形だが、次期社長を選ぶ最終的な権限が、株主総会にあることは明らかだ。もしも、現社長が推薦する人物が後任に相応しくないと判断すれば、株主総会・取締役会は、別の人物を選ぶことだってできる。

前任社長ができることは、株主総会・取締役会に推薦するところまでで、「抜擢し、道を譲る」権限まではない。

B あくまでも法律上の話だろう。現実感がない。

A もちろん、法律上の話だ。

現実には、それが機能していないから、君のように感じる人が多いのだろう。

君に限らず「社長が自分の後継者の人事権を握っている」と思っている人は多い。「指名委員会等設置会社」が普及しないのも、人事権の問題が大きいといわれている。稀に取締役会が本来の権限を行使したら「クーデター」などと囃し立てられる。

B 話が逸れているようだが。

A 失礼した。

次期社長を選ぶに当たって、業務を執行する社内取締役だけがメンバーである伝統的な「日本型取締役会」が、期待される役割を果たせないのは、ある意味で当然のことだ。自分の上司でもある社長の推薦する人物に「ノー」といえるような気骨のある人物が、そうざらにいるはずがない。少なくとも私には無理だ。

B いても出世は覚束ない(笑)。

A 株主総会も、上場会社を前提にすれば、この問題で適切に機能するとは考えにくい。

B 持合いや安定株主工作のためか?

A それもある。

しかし、もっと重要なのは情報の非対称性だ。

B 情報の非対称性?

A 簡単にいえば、情報量の格差だ。

上場会社の株主の多くは、経営に関しては素人だ。しかも、株主総会に提案された取締役候補者が、経営陣として本当に相応しいかを判断する上で必要な情報、例えば、どのような知識、経験、能力、性格の人物なのか、他に相応しい人物はいないのか、などの情報が決定的に不足している。

「過去の不祥事への関与」など特殊な事情でもない限り、豊富な情報をもつ経営のプロである現経営陣からの提案を受け入れるほかない。

B コーポレートガバナンス・コードが、独立社外取締役の複数選任を求めているようだが(※3)、それは、こうした構造に風穴を開けるためでもあるのか?

A 経営陣幹部を指名する際に「任意の諮問委員会を設置することなどにより…中略…独立社外取締役の適切な関与・助言を得るべき」(※4)とある以上、そうだと思う。

加えて、経営陣幹部を選任する際の「個々の選任・指名についての説明」を「開示し、主体的な情報発信を行う」ことも求めている(※5)

B 指名プロセスの透明化か?

A その通りだ。

2015年9月24日に始まった「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」でも複数のメンバーから指名プロセスのあり方について指摘があった。

内外の投資者から信頼される透明な指名プロセスが構築されることを期待したいものだ。

(※1)会社法362条2項など
(※2)会社法329条1項
(※3)コーポレートガバナンス・コード原則4-8
(※4)コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①
(※5)コーポレートガバナンス・コード原則3-1(ⅴ)

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳