地方創生における競争と連携

問われる地方銀行の役割

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2015年08月31日

  • 菅谷 幸一

本年、「ローカル・アベノミクス」とも称される地方創生の取組みが本格的に始まった。現在、各自治体において、地方創生の実現に向けた「地方版総合戦略」の策定が進められており、地元住民に加え、「産官学金労言」の参画による力の結集が求められている。なかでも、金=金融機関(地方銀行をはじめとする地域金融機関)に期待される役割は大きく、主体的な関与・協力が必要とされているところである。(※1)

地方銀行は、特に貸出業務を通じて、営業基盤を置く地域の地場企業に関するデータ・情報や、産業横断的なネットワークを有している。さらには、地域密着型金融の取組み等から、創業支援から事業再生までのライフステージに応じた営業支援等の知見やノウハウを蓄積してきたと言える。銀行により事業内容や経営体力・能力に差があることから、その影響力の大きさを一概に述べることはできないが、地域の総合戦略の策定および推進に果たせる地方銀行の役割は決して小さくはないであろう。

これまでの地方銀行による地域密着型金融の推進は、面的再生を図る取組みよりも、個々の企業の成長支援を積み重ね、地域経済の活性化へと広げていく取組みが中心であったと考えられる。今回の地方創生は、このような取組みの延長とも言えるが、一方で、地方全体の総合戦略の中に、個別企業を戦略的に位置付け、成長支援するという考え方がより強くなると思われる。この場合、地方銀行にとっては、地方の総合戦略が自行の経営戦略の土台ともなりうる。こうした観点から、地方銀行が自治体または多様な主体と協働しつつも、イニシアティブを取っていく意味は大きいと思われる。反対に、このような動きから取り残されれば、競争上不利になる可能性すら考えられよう。

さらに、地方創生に向けた自治体間の連携拡大においても、地方銀行の貢献が望まれよう。地方創生の取組みが市町村や都道府県といった単位ごとに進められることによって、自治体間競争の様相が強まっていくことが想定される。このような競争が進むことで、各自治体において、改革の進展や生産性の向上が促される側面があると思われる一方、競争が行き過ぎれば、格差が広がることや、地方全体としての成果の最大化が図られないことも考えられよう。よって、自治体間の連携を模索する必要があると思われるが、その調整や連携促進にあたっては、地方銀行が自らのネットワークや知見を活用する形で、主導的に関与していくことが期待されよう。

今後、地方創生に向けた取組みが、地方間の競争および各地方内の連携強化を促していくことで、国全体としての地方創生の成果が大きくなると思われる。地方銀行においては、地方創生への取組みという点で、銀行間の競争や連携が活発になっていけば、結果的に地方創生が促進されるかもしれない。

(※1)地方創生に向けた地方銀行の役割と課題に関しては、大和総研調査季報「地方創生において地方銀行に求められる役割と課題」(2015年新春号(Vol.17))に考察をまとめた。

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