お薬手帳の電子化の可能性

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2015年05月18日

  • 原田 裕太

昨今、調剤薬局で薬を受け取るときや病院に入院したときに必ずお薬手帳の有無を聞かれる。お薬手帳と聞いて、調剤薬局や病院で発行される、調剤日付・処方された薬名・日数・服用回数などの必要情報が記載されたシールを貼っておく通帳サイズの台帳というイメージをお持ちの方も少なくないのではないか。少なくとも筆者はその認識であったため、調剤薬局や病院で手帳を提示するものの、内容について見返すことなく今日まで過ごしてきた。

しかし、先日、お薬手帳にシールを貼るなどの必要情報の記載は義務ではなく、記載不要である旨を伝えれば、その分費用負担が安くなるということを知った。そこで改めてお薬手帳について考えてみた。

お薬手帳は、医療関係者が調剤記録や注意事項を患者に提示し、患者は服用履歴やアレルギー経験等を書きこみ、医療関係者はそれを見て薬の量や飲み合わせをチェックするといった、患者の服用状況を継続的に管理するツールとして導入が進んできた。

東日本大震災では、避難者がお薬手帳の服用履歴をもとに、これまで通りの治療や薬の処方を受けることができたために命が助かったというケースが多数あり、改めてお薬手帳の価値が見直されているところである。

しかしながら、複数のお薬手帳を持ち合わせてしまい、過去の医療情報が一括管理できていない点、シールの記載項目が統一されておらず内容も専門用語で記載されているために、患者にとってわかりづらい点など、現状では、お薬手帳が単純に医療関係者から一方的に提供される情報管理台帳となってしまっているケースも見受けられる。

お薬手帳を患者と医療関係者の双方向のコミュニケーションツールとして活用するには、お薬手帳を「お薬手帳=患者のために」のスタンスのもと、患者にとって利便性の高いものにする動きを加速させていく必要があるだろう。

そこで、筆者が注目しているのがお薬手帳の電子化である。お薬手帳の電子化は、大阪府薬剤師会の「大阪e-お薬手帳」や川崎市薬剤師会の「harmo(ハルモ)」など、一部地域で試験的に開始している。これらは患者の利便性が高まるように創意工夫がなされている。

例えば、患者の医療情報をデータベースで一元管理して、患者は自らの携帯端末等で調剤された薬の情報や服用回数などを確認することができ、専用のアプリケーションを導入すれば、服用時間にアラームが鳴るなどの設定を入れることもできる。また、薬の服用履歴を登録すれば、飲み忘れなどの情報がデータベースにアップロードできるような仕組みを導入しているものもある。

お薬手帳の電子化によって、医療関係者は、患者がお薬手帳を持参していなくても、患者の情報を確認することができるため、新たな医療機関を受診する際や災害発生時においても、かかりつけ医と同様に適切な医療を施すことが可能になる。

お薬手帳の電子化は、ここ数年で導入が進むと思われる一方で、現状では、地域ごとや調剤薬局ごとに独自のシステムで運営されており、全国統一のシステムはない。

インターネットやクラウド環境の普及に伴い、ビッグデータと呼ばれる大量かつ多様なデータをリアルタイムで管理できるようになってきた。お薬手帳の電子化を全国的に広げてデータ量を増やすと同時に、IT技術を駆使して全国統一のサービスレベルを提供することで、患者にとって身近で利便性の高い、まさに「お薬手帳=患者のために」なる手帳が可能になると期待している。

実際、政府は全国民に割り振るマイナンバーを医療分野に活用する方針であり、本人が同意すれば、マイナンバーで集めた医療情報をビッグデータとして分析することで、過剰な検査などを省いて国民医療費の削減や新薬開発に活用するとしている。マイナンバーとお薬手帳を連携できれば、お薬手帳の電子化を全国規模に広げられるであろう。

お薬手帳の電子化は、世界でも例をみない、患者の医療情報を一元管理する画期的なシステムである。我々は自分の健康は自分で守るといった意識のもとに、「お薬手帳=患者のために」として活用できるものとなるように、お薬手帳の内容について医療関係者と一緒になってサービスレベル向上のための議論を活発にしていくことが必要ではないか。

参考文献
大阪府薬剤師会
harmo(ハルモ)
「薬局における服用支援等について」 中医協 19.12.12
「東日本大震災におけるお薬手帳の活用事例」日本薬剤師会 平成24年6月
「知っておきたい薬の知識」厚生労働省 日本薬剤師会 平成26年10月
「共通番号で医療費抑制」日本経済新聞 2014年6月18日朝刊
「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」資料 厚生労働省
「平成26年度調剤報酬改定及び薬剤関連の診療報酬改定の概要」厚生労働省

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