必要なのは機会均等の再確立

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2015年04月10日

  • 大和総研 顧問 岡野 進

最近、貧富の格差拡大の問題や、それにどう対処すべきか、という点が議論されることが多くなった。

現実の日本の状況は米国などと比べれば所得の格差拡大は大きくないといえるかもしれない。格差を測る尺度として使われているジニ係数(厚生労働省「平成23年所得再分配調査」による)をみてみよう。税や社会保障制度などの再分配後の実質的な所得についてのジニ係数は0.3814(1999年)が0.3791(2011年)となっており、2000年代に入ってから所得格差の拡大はみられない。ただし、当初の所得でのジニ係数は多少上昇していた。つまり、税金や社会保障の効果によって所得格差拡大が全体としては抑制されている姿である。

一方で、資産保有の格差は日本では所得格差よりかなり大きいのではないかと推測できる。土地価格の下落によって、バブルのピークのころに比べると時価ベースでの保有資産格差は小さくなったと思われる。土地価格は70年代の水準に下がっており、この40年間は価格による効果で資産格差がいったん広がったが、それはもとに戻ったといえる。ただし、バブル期には家計は全体としては高くなった土地をかなり手放しており、この時期に大都市で一定規模の不動産のキャピタルゲインを実現した層は、現在でも多額の金融資産保有を維持している人が多いであろうと推測できる。家計調査(2013年)においても、4,000万円以上の貯蓄を保有する世帯は全体の約1割で、総貯蓄額の約4割を保有している、という分布になっている。マクロの金融資産統計との整合性を考えると、金融資産の保有格差はもう少し大きいかもしれない。

勤労(事業経営を含む)による所得の格差は、いわば個々人の能力の発揮や努力の結果であって、経済の活力と関係している。実際にそうした所得の格差は現行の税制、社会保障で全体的には拡大はしていない。他方、資産の格差は、累増的な性格も持っている。そのネガティブな面が、貧困が増加しているという現実である。貧困に陥る原因は個々の事情に違いがあるものの、社会全体でみれば所得格差が長期、複数世代に固定化してしまい、その累積が引き起こしているのではなかろうか。実質的な機会均等が失われている可能性がある。結果の平等のみを求める政策は社会の活力を失わせるが、機会均等が機能せず階層が固定化してしまう社会も活力は失われていくだろう。

機会均等を確保するうえで、大事なポイントは教育と若年層の雇用創出である。奨学金制度の改革など、政策として行えることはあるのではないか。若い世代が同じスタート地点に立てるようにしていかなければならないだろう。

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