ご当地「完全養殖」ブランド魚は海を渡れるか

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2014年12月15日

  • 大川 穣

ニホンウナギに続き、クロマグロが国際保護自然連合(IUCN)の絶滅危惧種に指定された。日本人にとって最も馴染みが深い魚たちが資源枯渇の状況にまで追い込まれていることで話題となった。クロマグロは2002年に近畿大学の水産研究所が世界で初めて「完全養殖」に成功し、今後商業化の進展によって安定供給が大いに期待されている。世界的に様々な魚種で漁獲規制が強まる中、将来の需要を補うビジネスとして「完全養殖」にますます注目が集まりそうだ。

完全養殖とは、人工ふ化から成魚を育て、育てた成魚が産卵した卵をもとにふたたび人工ふ化を行う養殖技術をいう。天然由来の幼魚を活用した通常の養殖技術は、安定した幼魚の確保や天然資源の管理といった面でかねてから問題点が指摘されていた。それに対して、天然資源への依存が低い完全養殖は資源管理に配慮した持続可能な養殖技術となっている。

現在、完全養殖が技術的に確立されている魚種は多数あり、ヒラメ、マダイ、トラフグ、ギンザケ、クルマエビなどが挙げられる。インターネットで商業化されている国内の「完全養殖魚」を検索してみると、下表のように様々な魚種が全国各地で生産されていることが伺える。

全国各地に広がる完全養殖魚(一例)

完全養殖によって育てられる魚は、養殖施設や養殖環境、魚に与えるエサなどに特別な技術が施されており、食の安心安全の面においても信頼できる。肝心な味はというと、消費者好みの身質に合わせることができ、プロの料理人も認めるほどのレベルに達しているようだ。また、養殖技術の進展によって、海洋での養殖に限らず陸上での養殖も可能となっている。今、高齢化で人口減少が進む地域での活性化策としても注目されている。上記表中にある栃木県那珂川町の「温泉トラフグ」はその一例である。少子、高齢化の過疎に悩む地域であり、町おこしの発想から「温泉トラフグ」の養殖をスタートさせた。廃校教室を養殖施設として活用し、温泉水での飼育を可能とするなど、眠っている未利用資源を有効活用するという点で、非常にユニークな取り組みである。

良いことづくめの完全養殖に思えるが、日本の水産養殖業全体のトレンドは1988年の143万トンをピークに、2012年現在107万トンまで減少が続いている。国内における魚価の低迷やエサ代の高騰等が影響しているものと思われる。一方、世界の水産養殖業に目を向けると、その生産状況は2012年現在9,043万トンであり、2002年から2012年にかけて69.3%増加している。日本の養殖業とは異なり、世界の養殖業は紛れもなく成長産業となっている。

日本の養殖業は長らく続いた国内需要の低迷から抜け出せておらず、世界の成長産業としてのトレンドに乗ることはできていない。しかし、日々養殖技術の進展によって高度化していく完全養殖は、地域産業であっても輸出という手段を使って世界のマーケットに直結できる数少ないビジネスとして、ポテンシャルは期待できる。

世界銀行が国際連合食糧農業機関及び国際食糧政策研究所等と共同で発表している報告書によれば、2030年には食用水産物の6割以上が養殖水産物になることを予想している。世界の食糧需要の拡大に伴って、世界の漁業・養殖生産量も年々拡大が予想される。

陸で生まれた魚が日本海や太平洋を越えて、海外消費者の胃袋を満足させることができるか、これからが正念場だ。

(参考文献)水産白書 平成26年版 水産庁編

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