ベストを尽くせ! マネタリー・シャーマン

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2014年02月04日

先日、映画「トリック劇場版 ラストステージ」が公開された。超絶天才美人マジシャンの山田奈緒子と科学の申し子である上田次郎(日本科学技術大学教授)が数々のインチキ霊能力者のトリックを暴いていくというストーリーである。ドラマシリーズからトリックを見ていた筆者にとっては待望の新作であると同時に、最後の作品となることから、嬉しさと寂しさの交錯する複雑な感情を抱いている。

劇場版の公開に触発され、休日に過去のトリック作品を見ていると興味深い話があった。「言霊で人を操る男」というエピソードである。「言霊」により思うがままに人を操る能力を持った男が現れ、実際にその男の「言霊」通りの事件が起きていくのである。

「言霊」など過去の迷信であるように思われるかもしれないが、身近な所でも「言霊」が重要な役割を果たしている。

金融政策もその例の1つだろう。政策金利がゼロ近傍に張り付く中で、各国の中央銀行はバランスシートの拡大と同時に、市場とのコミュニケーションの強化を図った。例えば、欧州中央銀行のドラギ総裁はユーロを守るために、「必要なことは何でもする」と市場に強烈なメッセージを発し、市場の不安を払拭することに成功した。このように言葉により市場の期待に働きかける様子は、いまでは「マネタリー・シャーマン」と表現されている。

日本銀行の黒田総裁もその「マネタリー・シャーマン」の一員であろう。2年間で2%のインフレを達成するという「言霊」により、市場の期待へ働きかけている。要因は何であれ、足下でインフレ率は上昇しており、インフレ目標達成のためにベストを尽くしている黒田総裁の「言霊」通りとなっている。

ただし、今後も「言霊」通りに物価が上がるかは極めて不透明である。物価が思うように上昇しなければ、黒田総裁は「言霊」による神通力を失いかねない。黒田総裁には日本経済の先行きを「まるっと見通して」頂き、最後まで「言霊」による神通力を失わないよう願いたい。

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久後 翔太郎
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 久後 翔太郎