内需主導の景気拡大と貿易赤字
2014年01月22日
貿易赤字の拡大傾向が続いている。2013年11月の貿易赤字額は1兆2,941億円と、1979年の統計開始以来、3番目の赤字幅となった。また、赤字幅が2ヶ月連続で1兆円台となったのは統計開始以来初めてのことである。
貿易赤字の拡大傾向が続いている最大の理由は、2012年末以降、円安傾向が続いているにもかかわらず輸出数量がそれほど伸びていないことであろう。円安が進むと、円建て換算の輸入価格が上昇するため、一旦は貿易赤字が拡大する。しかし、価格競争力の向上が輸出数量を押し上げる効果が徐々に顕在化することで貿易赤字は縮小へ向かうと考えられてきた。この、いわゆる「Jカーブ効果」がなかなか発現しない(もしくは弱い)ことが、このところの貿易赤字拡大の主因であると言える。
しかし、貿易赤字の拡大が続く理由は、輸出数量の伸びが鈍いことだけではない。輸出数量が伸び悩む一方で、輸入数量の増加が続いていることにも注目すべきであろう。
過去の推移を見ると、輸出数量と輸入数量は非常に高い連動性を持っていた。この連動性は、東日本大震災以降の原子力発電所の稼働停止に伴う燃料輸入の増加によってかい離することとなったが、かい離幅が足下で一層拡大していることが貿易赤字拡大の要因となっている。
輸入数量は基本的には国内景気の動向によって決定される。過去、輸入数量と輸出数量が連動してきたのは、日本経済が輸出に依存しており、「輸出数量増加→国内景気拡大→輸入数量増加」という因果関係があったためである。しかし、足下の状況を確認すると、輸出数量が伸び悩むなかでも鉱工業生産は増加傾向にあり、国内景気の改善が続いている。これは、2012年末からの景気改善が個人消費を中心とした国内需要主導のものであったということに他ならない。すなわち、堅調な内需によって輸入数量の増加が続いていることが、貿易赤字拡大の要因となっているのである。
こうした状況に鑑みた上で先行きを見通してみると、内需、特に個人消費は増税前の駆け込み需要によって、2013年度末にかけて加速することとなる。このため、貿易赤字は輸入数量の増加によって一層拡大する公算が大きいだろう。一方、増税後については、駆け込み需要の反動減によって内需の落ち込みが不可避であるとみられ、輸入数量が減少することで輸出数量と輸入数量のかい離は縮小し、貿易赤字の拡大にも歯止めがかかる可能性が高い。
「赤字」という単語が与えるネガティブな印象のせいか、貿易赤字の拡大を悪いものとみる向きが少なくないように感じる。確かに、貿易赤字が続くことの悪影響も否定はできないが、国内需要が落ち込み貿易赤字が縮小したとしても、それは手放しで喜ぶべきことではないだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年08月15日
2022年4-6月期GDP(1次速報)
個人消費の増加等で前期比年率+2.2%となるもGDIはマイナス成長
-
2022年08月12日
経済指標の要点(7/20~8/12発表統計分)
-
2022年08月10日
アメリカ経済グラフポケット(2022年8月号)
2022年8月8日発表分までの主要経済指標
-
2022年08月09日
企業に求められる人的資本と企業戦略の紐づけ、および情報開示
有価証券報告書における情報開示は実質義務化?
-
2022年08月16日
コロナ下の生活習慣
よく読まれているコラム
-
2022年07月21日
2022年度の最低賃金引き上げはどうなるか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2022年01月12日
2022年米国中間選挙でバイデン民主党は勝利できるか?
-
2022年08月08日
自動車の半導体不足は解消しつつある?
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?